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小説

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 梅雨前線がまだまだ居座っている六月下旬のこと。
 梅雨の湿気と高い気温に辟易とした岡田睦は、友達に一斉にメールを出した。
「飲むぞ!今夜八時に東門の芝生に集合」
 言い出した睦は、教育学部の三年生。細い体に肩まで伸びた明るい茶色のシャギーヘアは、後ろから見れば女の子に見えなくもない。でも、意志の強そうな大きな釣り目や悪戯っぽい口元はまだ成熟していない少年らしさを残している。
 睦に三リットルの樽ビールを担がされているのは、親友の医学部三年生、松下雄吾。睦と対照的に、長身痩躯、眉目秀麗な男だ。中学一年で睦と同じクラスになってから、もう九年来のつきあいになる。
 メールに呼ばれて集まった同じ大学の男子学生は十人ほど。手に手に好きな酒とつまみを持って、大学構内の芝生の丘に登ってくる。
 睦と雄吾は丘の頂上に陣取り、続々と集まってきた友達に、ビールで満たしたプラスチックカップを配って回った。
「まずは、暑さに乾杯!」
 睦が音頭を取ると、集まった全員がコップを高く掲げ、一気に干した。
 ビールに始まり、缶チューハイ、缶カクテル、誰かが持ってきた日本酒やウィスキーと見境なく飲み続ける芝生コンパは、時間がたつにつれ混沌とした状況になっていった。
「んじゃぁ、俺のキッスを寺岡に!」
 睦が唇を突き出せば、指名された奴も唇を突き出し、ちゅーっと熱烈なキスをする。
「次、俺、俺とチュー」
 せがまれれば、睦は気軽に唇を差し出し、チュッチュとキスをしてやる。
「それくらいにしとけ」
 キスが一巡した頃を見計らって、缶チューハイをちびちび飲んでいた雄吾が、苦笑を浮かべて、睦の襟首を掴む。
 雄吾は睦の親友だけあって、睦の扱いには慣れている。その世話の焼きっぷりは、仲間内で保護者と揶揄されるくらいだ。
 今日も睦の隣を陣取って、酒量をセーブしていたものの、目を離した隙に睦はガンガン飲んでしまった。
 雄吾に動きを封じられた睦は、雄吾の心配など意に介していない。
「なーに、雄吾もしてほしいの?いいよん、ほれほれ」
 へらへら笑って、睦が唇を突き出す。
 一旦は顔をそむけた雄吾だったが、睦がしつこく絡むので、嘆息した後、ぐいと肩を引き寄せた。
 睦の赤い唇が、雄吾の厚みのある男らしい唇にすっぽりと覆われる。
「んーーー」
 外からでも、睦の口中で雄吾の舌が蠢くのがわかる。歯列をなぞり、頬を擦る。口角から唾液があふれ、睦の顎に滴り落ちる。
 最初は冷やかしていた仲間たちも、あまりの激しさに唾を飲む。
 ちゅぱっと音を立てて、二人の唇が離れる。
 唾液でねっとりと濡れた唇を、睦の舌がつっとなぞる。とろんと潤んだ目が雄吾を見つめて、にやりと笑った。
「やるねー、雄吾。お前、どこでこんなの教わったんだよ」
 睦がケラケラと笑い、凍りついた空気を粉砕する。睦の哄笑につられるように、囲んだ仲間もげらげらと笑いだした。
 宴が最高潮に盛り上がり、浮かれ騒ぐ大学生たちを、突然、強烈な光が照らしだした。
「こらぁっ!お前ら、どこの学生だ!」
「うわ、守衛のおっちゃん!」
「学生課に通報するぞ!ゴミ拾って帰れ!」
 ドスの効いた怒声に、学生たちは慌てて、空き缶とコップを拾い集める。
 守衛に追い立てられるように芝生の丘を駆け降りた睦たちは気勢を削がれて、芝生コンパも何となくお開きになった。

更新日:2010-05-09 17:40:59

友情が恋に変わるとき(雄吾x睦)