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序章 3


 日差しがやわらかくて、あたたかい。風は心地よくて、森の緑の匂いがする。こうして草の上に転がっていると、眠たくなってしまいそう。いい日、というのは、こんな日のことをいうんだろうな。
「おーいっ、タキー!」
 遠くから僕を呼ぶ声がする。僕は立ち上がって、そちらを向いた。誰なのかはもう、はっきりわかってる。
 僕が今いるこの場所は、いろんな草花が足首の辺りまで生えていて、ちいさな生き物たちであふれている。ぼくはそんなここがすきで、よくここに来ている。ハルもやっぱり同じみたいで、ここではしょっちゅう、ハルに出会う。
 ハルっていうのは、今僕の名前を呼んでいるひと。僕の友達。
「ようっ」
 手を振りながら、すこし息をはずませて、ハルは僕のところへ駆け寄ってきた。
「……ん」
 返事をすると、ハルは僕の目をまっすぐに見ながら、言った。
「どうした? ……元気ねぇな。また奴らになんか言われたのか?」
 僕は首を横に振る。ハルは、そっか、と言って、僕に座るように促した。草がちょうど、クッションがわりになってくれていて、いい気持ちだった。

 ハルのそばにいるのは楽しいし、嫌いじゃない。だけど、ハルのとなりは、なんとなく自分をみじめにさせられる。
 すこし日にやけていて、背が高くて、男らしいハル。まっすぐで、堂々としていて、自分に自信があって……。

 僕は、肌なんかまっしろで……貧弱で。女々しくて、自分ひとりじゃ何も出来ない……。
 そして、ハルの明るい黄金色の髪。けっして高貴な感じというわけではないのだけれど、人目をひく自然な美しさ。タンポポみたいな……。

 春に咲くたんぽぽ。ハルの名前の由来だ。

 人目をひくのは、僕の髪も同じ。ハル以上に。ふたりでいても、ハルの髪の明るささえ、かすんでしまうくらい、僕の髪は人目につく。
 それが嫌だった。ハルのようなきれいな髪ならいい。僕の髪は……。

 ───僕の、髪は、普通じゃ……ない。

「……ホントいけすかねぇや。開拓だかなんだかしらねぇけど、奴らのせいで、森はどんどん狭まってくし、川だって……」
 ハルがあたりを見回して、そう言った。ハルの言う 『奴ら』 っていうのは、僕たちの住んでいる小さな村の、大きな森を開拓しに来ている人達のこと。彼らと、もともとこの村に住んでいたひとたちは、あまりいい関係とは言えない。

 それどころか、村のひとたちは、ほとんどのひとが、彼らに敵意をもっている。原因はいろいろあるけれど、その中のひとつに、僕の父さんのことがある。

 僕の父さんは、賊に狙われた、村の若長を守って、死んだ。賊は若長の財産を狙った、開拓者だったらしい。

 母さんは、僕が赤ん坊の頃に、他界してしまっていたから、僕はそのときから、独りきりになるはずだった。そんな僕を、若長はその場で引き取ってくれた。長には跡継ぎがいなかった。奥さんを早くになくしてしまったせいらしい。僕が4つ、長が25歳のときだった。やさしかった若長。僕をだいじにしてくれた。

 そんな長も、病のために、もう半年も前に、逝ってしまった……。

 ハルはひととおりのことを知っている。だから、開拓者のことになると、顔色を変えてしまうんだ。

 彼らの多くは、僕のことを見て、黙っていることはない。ハルはそんな時には、きまって、自分のことのように怒ってくれる。

 ふいにハルは立ち上がった。僕も立ち上がる。ハルは空を見上げていた。僕も同じように見上げる。みんな……空の上に、いるんだろうか。

更新日:2010-05-07 18:36:33

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