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第一章 4

「……なんだよ……おまえ!」
 俺は突然現れたそいつに向かって怒鳴った。隣にいたタキは、なんとも言えない表情をして、やはりそいつのことを見ていた。
「───タキ」
 そいつが、タキの名前を呼ぶ。
 男だった。長い銀色の髪が爪月に照らされて、キレイ……といってもいい顔立ち。夜の闇にやたらと映えていた。
 くすくすと笑いながら、そいつはタキのことを見ている。
 サラは怯えた顔で、その男を見ていた。
 ……やっきねえな……。
「テメエがやったのかよ───この風───ヒトん家の窓ガラス破りやがって! 部屋ん中メッチャクチャにして……ベンショーしろっ!! 弁償!!」
「……タキ、おまえはよほど、火に縁があるようだな……」
「だぁぁぁぁっっ! 無視してんじゃねえよっ!! なんなんだよ、オマエ!!」
「わたしか? わたしはソウゲツ」
 そいつはやっぱり笑みを浮かべながら、言う。
 あーっっっ!! こういう奴はだいっきらいだ! なんだかんだとカッコつけやがって。
「──────違う!!」
 タキが大声で叫んだ。びっくりした。
「あなたは奨月じゃない! あのひとからは、あなたのような、邪悪な気配はしなかった!!」
「……奨月と接触したのか……ならば……」
 そいつの顔から笑みが消えた。冷たく凍りつきそうな瞳。抑揚のない声。ゾクゾクするくらいの禍々しい気配。

 そいつはす……と手を上げて、何かをつぶやいた。
 瞬間。
「……? ───っあぁぁぁぁ!───」
 タキの体が黒い霧につつまれた。なんなんだ……? あれ……。
「……く……う……」
「風月の皇子はどこにいる……答えろ」
「……ぅ……しら……な……」
「答えないのか……」
 そう言って、男はあげた手をぐっと握った。
「うあぁぁぁぁぁぁっっっ!」
 がくん・・・・
 タキがうなだれた。
 なんてこった……。
「タキッ!」
 俺は大声でタキの名を呼び、かけよって体をゆすった。だけど返事は全然ない。サラは泣きながら震えて、タキのことを見つめている。
「……つまらんな」
 そいつがす……っと、部屋の中に降りた。全然動かないタキに近寄ろうとしたそいつを、俺は阻む。

 タキとサラに、なんかしてみやがれっ! ふっ飛ばしてやる!
 とにかく俺は必死だった。守らなきゃいけない、守りたい。今の俺を動かしてるのはそれだけだった。
「…………テメエッ!!」
 そいつを睨んで、俺は叫んだ。
「随分好き勝手やってくれるじゃねえか……表に出ろッ! ぶちのめしてやる!!」
「……ほう……おもしろい」
 そいつは窓から下に降りた。俺は地下水脈を移動させ、水柱をたてる。そしてその水を具現化し、水の龍に飛び乗った。
「手加減なしだぜ」
「……死ぬぞ……おまえ」
 俺はそいつの足元から、水柱をいくつも立てる。
 ……全然かすりもしない。
 そいつは呪文を唱えて、印を結んだ。

 ……ちょっと……いや、だいぶまずかったかな……こいつに戦いを挑んだのは。
 俺は攻撃系の呪文なんか、知らない。
 水柱を立てた後、水を別の場所に移動させたら、そこに落ちるんじゃないかな~、とか思ったんだけど、こいつ、浮けるんだよな……。やべぇ。

 呪文を唱え終わった銀髪男が、てのひらをこっちに向ける。聞いたことのない呪文だった。それもそのはず、その手から放たれたのは、灼熱の炎だったのだから。水使いの俺にはまったく縁のない呪文だ。
 とっさに、それを避けた。上手く避けたつもりだった。でも……水龍の首半分、蒸発して消えてしまっている。

 ……やばい。もうハッタリはきかねえ……。

「……ガキのくせに……水龍の召喚ができるのかと……感心していたのだがな」
 そいつは一瞬のうちに、俺の目の前に移動していた。
「違ったわけだな……」
 笑いながら、俺の首に指を絡め、絞めていく。
「……魔力ではなくても、倒せる相手だったな……」
 俺は苦しいながら、相手を睨む。
 すると。
 俺はそいつの服が、ぼう……っと光っていることに気づいた。
 そっと手を伸ばして、そいつの服の併せに手を突っ込むと、何か、かたいものが指先に触れた。俺を小物だと思って、油断しているこいつだ。全然気づいてない。
 それに指を掛け、思いっきり引き抜く。首を絞められたままの作業だ。苦しいなんてもんじゃない。

 引き出されたのは、竪琴だった。それも、タキがもっていたものと、まったく同じ。

 あのときの光は……こいつが……。
 コイツが持って行ったってんなら、さっきまでの疑問にも合点がいく。

 だけど、上手く行ったのはここまでだった。


更新日:2012-02-05 04:07:44

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