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第一章 3


 タキはベッドの上に座って、窓の外の月を見ていた。爪月ではあるが、かなりの光を放っている。月の光に照らされたタキの顔は、こわいくらいに白かった。
「……目、覚めたのか?」
 シフがそばへ歩きつつ、声をかける。
「シフ……僕」
 弱々しい声で言う。
「わかってる。……それにしても……」
 シフは月を見上げ、ため息をついた。
「おかしな話だよな……」
 シフの言葉にサラもうなずく。
「廃屋のあたりには、それらしいもんは無かった。さっきこの目で見てきたんだしな」
「ほんとに、ほんとに、ほんっっとーに無かったの?」
 サラが聞き返し、続ける。
「本当に、途中で落とした音とかしなかったの?」
「しなかったよ。ンな……」
 言いかけたそのとき、シフの頭の中を記憶が突っ走っていった。
「………………した」
 ぽつりとつぶやく。
「なんですってぇーーーーっ!」
 サラが叫ぶ。
「……何か光ったのも見たし……」
「 『第一、竪琴だろ? 落したりしたら鳴るだろうが』 」
 サラはシフを睨んで、先にシフが言っていた言葉を真似て言う。シフは両手を前にかざして、自分をかばうような格好をした。
「……そう言ったのはあんたでしょうよぉっ! それが、なに? ……しっかり音、聴いてたんじゃないっ。だいたいどうして今まで黙ってたのよ!」
 シフはバツが悪そうに、言う。
「……忘れてたんだよ」
「……あの」
 それまでずっと二人に圧倒されて黙っていたタキが口を開いた。
『なにっっ!?』
 二人にとってはレクリエーションなのだろうが、険悪な雰囲気になりかけていたシフとサラが、一緒になってタキのことを睨んだ。
「……その……音と、光の場所……」
 怯んだように言うタキに、はっと我に返ったような二人。
「そうだったな……」
「そうだったわね……」
 ほんとうに。何を遊んでいるんだろうか、こいつらは……。

***** 

 なんだかんだ言っても、今日はもう遅いから、その場所に行くのは明日にしよう……ということにした3人は、しばらくぼーっとしていた。
「…………っけなーいっっっ!!」
 サラが叫ぶ。
「なんだよ……いきなり……」
 おおげさに耳を、とんとんとたたきながら、シフが言った。
「どうしようっ。あたしったら、ここに来るって言ってないよ……。あーあ……心配してるだろうなぁ……」
「さっさと帰ったほうがいいぞ。心配かけるのはよくねぇよ」
 シフはサラに言う。サラは自分の指を口元にあてて、ちょっと頬をふくらませた。
「でもー、今日泊まりたいしなぁ……」
「げっ! おまえ泊まってく気なのかよっ。やっぱ……襲うつもりなんじゃ……」
 サラがすかさず出したパンチを、シフはひょいと避け、ため息をついた。
「……しゃあない。連絡入れてやるよ」
 シフは右手を差し出し、ヒラヒラと振った。
「ホント? サンキュッ」
 サラは差し出された手をそっと握った。
「あーあ、これってやたらと疲れるんだけどなぁ……」
 シフがぶつぶつ言いながら目を閉じる。シフの周りの空気が、動いているような感じがした。そして……。
 ぶわっ
 シフの髪の毛を結んでいた紐がほどけ、その金色の髪が大きく広がる。やがて広がっていた髪は、はらはらと戻り、シフは大きく息をはいた。シフの髪が波うっている。
「……つながったぜ。はやいこと済ませちゃってくれよ……」
 サラはにこにこ笑って、握っている手にちからを込めた。
 テレパシー能力の応用のようなものだ。
「……おかあさん? あたし。サラだけど。え? ……うん、うん。……そう。うん……シフの……やっだぁ~、もお。三人よ。え? そお。うん。……あん? なぁに? ───ねえ、シフ。きこえにくいよぉ」
 文句を言われたシフは、黙って集中する。
「え~、うん、だから、そそそ。じゃーね」
 サラがそこまで言うと、シフはサラの手を思いっきり強く握った。
「いったたたた! いたいっ、痛いってばあ」
「お・ま・え・は……いつも言ってんだろ? 長話はやめろって」
「別に長くなんか……」
 サラはいつものように言い返そうと、シフを睨んだ。シフの額には汗が浮いていて、息が少しきれている。サラはそれを見て、うつむいて、言った。
「……ごめんなさい」
 シフはびっくりしたようにサラを見る。
「おおっ! やけに素直じゃん」
「……真面目に言ってるの。シフ……今日いろいろ大仕事してきた後だっていうのに……」
「……いいよ。ンなこと気にしなくても。それより……タキ」
 ぼ~っとしたまんまのタキに声をかける。突然自分の名前が出てきて、驚いている様子だ。

更新日:2010-05-12 00:08:05

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