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第一章 1


 奨月のおかげで、どうやら少年……いや……タキは、闇の外へ出られたようだった。
(なんだか頭がぼうっとしてる……)
 そこがどこか、などという問いには、タキには答えられるはずも無い。見覚えの無い場所だった。もっとも、タキには記憶がないのだから、忘れてしまっているだけなのかもしれないのだが。

 一面の緑と、まぶしい光の中に、タキは立っていた。空色の長い髪が、風にふかれてさらさらと流れる。それは流れる川のように、太陽の光を受けて輝いていた。
 タキは胸を反らせ、大きく息を吸い込んだ。
 肩に巻いておいたバンダナを解き、その不思議な色の髪を結わえる。
(ただ考えてても何も変わらない。まずは自分が動かなきゃ……)
 自分自身に気合を入れてみる。そうやって改めてあたりを見回すと、木々のあいだに家々がかすんで見えた。
(村があるんだな……)
 タキはそこを目指して歩き出す。少し歩くと。膝丈ぐらいの高さの草が、足元をさえぎり、歩きづらくなった。タキは無理にかき分けようとも、踏み込もうともせずに、ただ腕に抱いた銀色の竪琴の弦に指をかけた。

 竪琴の音が響き、その余韻も消える頃、タキの足元の草は、さあ……っと音をたてて、二つに分かれていた。その道はやがて、人の手によってつくられた道へとつながった。しばらく歩くと、ひとつひとつの家の特徴がわかるぐらいに、村は近づいた。タキはその村の一角から、細い煙が昇っていることに気づく。
(焚き火……かな)
 心に何かひっかかったまま、タキは村へと足を進めた。煙ののぼっていたところから、小さな火の手があがる。
(───火!!)
 タキはそこへ向かって駆け出した。なぜかはわからないが、駆け出さずにはいられなかった。
 炎はどんどん大きくなっていく。
 村の手前まで来ると、村の人々が口々に何かを叫んで、火に水をかけている様子が見えた。タキはそれを見て一瞬立ち尽くし、すぐに村へと駆けた。
 村の中、火の元に近づいてきたのだろう、きな臭さが目と鼻を突く。

 タキの目の前で、一軒の家が炎に包まれていた。
 身を引こうとした瞬間、その家の半分ほどが、音を立てて崩れた。
 タキの中に、言いようのないおかしな感覚が走った。
「あ……あ……」
 タキの体の力が抜け、その場に膝をつく。呆然としているタキの前で、再び家が崩れ、タキを炎に巻き込もうとしたそのとき、大きな龍が、タキの目の前に降りた。龍の出現と同時に、先ほどまでの業火は消えた。龍は再び空に舞い、村中を駆けた。龍のからだを透かして、村の様子が見える。村を一巡りして、龍は再びタキの前に降りた。
 龍の背には一人の少年が立っていた。少年がそこから飛び降りると、水の龍は霧になって散った。

更新日:2010-05-11 00:21:08

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