• 28 / 235 ページ
蓮はこのことにはしばらく気がついていなかった。
210・・・220回まできたが蓮はまだ走っていた。
「あいつバケモンだろぉ、あんなんが帰宅部だなんて冗談じゃねえ!」
坂本は叫んだ。まだ息が整わない、それに蓮の走りに脅威を感じていた。
「れぇん!すごいよ!!坂本君を抜かすなんて。」
蜜柑もテンションは絶好調だ。蓮は坂本が脱落したのを気づいたが、そこまで意識を傾けることはできなかった。
230・・・240回まできていた。
先生も驚くしかなかった。クラスのみんなも静まりかえって蓮の足音が木霊していた。
「す、すげえ・・・」
「あいつ、なにものだよ?」
ただただ、驚くばかりであった。
蓮もしんどいがここであきらめたら後悔すると思って我武者羅に走っていた。のども渇いてきたが昨日のに比べればどうってことは無い、それに頑張ってみると意外と走れるものだと実感してきた。
250・・・260回目で蓮はペースが落ちた。しかし最後の力を出し切ることに決めた蓮はとことん走った。
そしてついに275回目でダウンした。
「はあ、はあ・・・はあ・・・っく」
蓮は地面に座りながら空をみあげた。ずっとずっと遠くを見ていた、
蜜柑が来て蓮にはなしかけた。
「すごいよ、275回も行ったなんて!みんな驚いてるよ。」
「そっか、俺・・・そんなに行っていたんだ・・・」
自分でも気がついていなかった、途中で坂本がダウンして・・・それ以降は走りに意識しすぎて回数なんて忘れ去っていた。
「まあ、結果はどうでもいいや・・」
自分でもこんなにはしれるとは思わなかった。とりあえず中学時代のバイトが役立ったかな?
こんなことを思いながらも立ちあがった。
「それにしても大丈夫?今日あんまり体調よくないんでしょ。」
蜜柑が心配するが蓮は軽く笑い
「大丈夫。昨日にくらべりゃどぉってことはないよ。」
っとさらりといった。
「俺の負けだ、まさかあんなに行くとはおもわなかったぜ。」
坂本の声がどこからかする。
「おまえ本当に帰宅部なのかよ、陸上でも十分活躍できるとおもうがな、」
坂本がはんぶん呆れるように言ったが、もう蓮にとっては勝負はどうでも良くなっていた。
「おいおい、本当に坂本が優勝したことあるのかよ。」
「そうそう50以上も差をつけられちゃあねえ、いくらなんでも疑っちゃう・・・」
周りからこんな会話が聞こえてきた。これでは坂本の立場がズタズタである。蓮は確かにがんばったが、結果はどうあれ少しかわいそうに思えてきた。
蓮は坂本を見つめた。
「お前、実は、本気だしていないんだろ・・・」
少し大きい声で言う。周りの生徒も聞いていた。坂本は慌てながら
「な、なにいってるんだよ・・・」
と詰まりながらいっている。
「俺は知ってるぜ。お前が途中手をぬいたってことをね。」
「おいおい、さっきからなにいってるんだよ。」
変なことを言う蓮に蜜柑も坂本もあせっている。
「なーんだ、だからか・・・」
「それなら早くいってくれよな。」
「まあ、陸上の星が体育で怪我されても困るからな。」
周りはこんなことを言っていた。蓮も軽くにやけながら
「もう授業終わりだからかえるか。」
といってくるりと向きをかえて蜜柑と一緒に校舎まで歩いていった。
坂本は気づいていた。蓮の心配りを・・・
(本澤蓮か・・・いいやつだな。あんなやつから静岡さんはとれないか・・・)
坂本は蓮の方向をみながら、にっと笑った。

「ねえ、蓮。坂本くんが本気じゃないってどうしてわかったの?」
蜜柑が聞いてくる。蓮は歩きながら
「まあ、ちょっとした・・・ね」
それしか言わない蓮に蜜柑は疑問を抱いていた。
「あいつも分かっているんじゃないかな?」
蜜柑は余計にわからなくなってしまった。

更新日:2010-06-11 01:01:03

  • Twitter
  • LINE
  • Facebook