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第X章Ⅱ 動き出す歯車たち
西暦2010年。8月上旬。A市内某所。
蒼白い月光が窓から差し込む無機質なコンクリート造りの部屋。がらんとした室内には簡素なパイプベッドが一つ置いてあるだけ。他には何もない。
「陳腐な正義感……か……」
窓の傍に立って遠くの街の灯りを眺めながら男は呟く。
「最初は全く興味がなかったが……やはりあれは……いつか僕に仇成す存在になる……か」
さらさらとした美しいショートミディアムの髪。その長い前髪の隙間から覗く双眸は刃物のように鋭い。
「彼らについて少し調べてみる必要があるな……」
男は部屋の片隅に置かれたベッドを振り返った。
「ヴェノム・スレイブ……彼女を使ってみるか……」
男の視線の先には、窓から差し込む月光を浴びて横たわる美しい女性の姿があった。
西暦2010年。8月中旬。中原沙夜子自宅。
「もしもし……」
『もしもし、中原さん?』
「はい……」
『こんな夜遅くに突然お電話してしまってすみませんわね。能登ですわ』
「はい……。こんばんは……」
『今お時間よろしいかしら?』
「大丈夫ですよ……。用件は何ですか……?」
『実は……折り入ってあなたにお願いしたいことがありますの』
「お願い……?」
『ええ』
「どういったことですか……?」
『内容をお話しする前に……一つだけ約束していただけますかしら?』
「何をですか……?」
『これからお話しすることは、くれぐれも内密にしていただきたいの』
「……それは……内容によります……」
『…………』
「能登さん?」
『はあ……仕方ありませんわね。ほんとうはこれは言いたくなかったのですけれど……。中原さん……』
「はい……」
『わたくしに内密に協力なさい。これはお願いではなく、命令です』
「…………」
『協力しなければ死んでいただきます。他言した際も同じく』
「本気……ですね?」
『ええ……もちろん……。あなたの膝の上のその可愛らしい三毛猫ちゃん共々……ね……』
「っ!?」
『無駄ですわ。わたくしはあなたからは絶対に見えない場所であなたを見ていますもの』
「内容……は……」
『……刺青の天使のことですわ』
蒼白い月光が窓から差し込む無機質なコンクリート造りの部屋。がらんとした室内には簡素なパイプベッドが一つ置いてあるだけ。他には何もない。
「陳腐な正義感……か……」
窓の傍に立って遠くの街の灯りを眺めながら男は呟く。
「最初は全く興味がなかったが……やはりあれは……いつか僕に仇成す存在になる……か」
さらさらとした美しいショートミディアムの髪。その長い前髪の隙間から覗く双眸は刃物のように鋭い。
「彼らについて少し調べてみる必要があるな……」
男は部屋の片隅に置かれたベッドを振り返った。
「ヴェノム・スレイブ……彼女を使ってみるか……」
男の視線の先には、窓から差し込む月光を浴びて横たわる美しい女性の姿があった。
西暦2010年。8月中旬。中原沙夜子自宅。
「もしもし……」
『もしもし、中原さん?』
「はい……」
『こんな夜遅くに突然お電話してしまってすみませんわね。能登ですわ』
「はい……。こんばんは……」
『今お時間よろしいかしら?』
「大丈夫ですよ……。用件は何ですか……?」
『実は……折り入ってあなたにお願いしたいことがありますの』
「お願い……?」
『ええ』
「どういったことですか……?」
『内容をお話しする前に……一つだけ約束していただけますかしら?』
「何をですか……?」
『これからお話しすることは、くれぐれも内密にしていただきたいの』
「……それは……内容によります……」
『…………』
「能登さん?」
『はあ……仕方ありませんわね。ほんとうはこれは言いたくなかったのですけれど……。中原さん……』
「はい……」
『わたくしに内密に協力なさい。これはお願いではなく、命令です』
「…………」
『協力しなければ死んでいただきます。他言した際も同じく』
「本気……ですね?」
『ええ……もちろん……。あなたの膝の上のその可愛らしい三毛猫ちゃん共々……ね……』
「っ!?」
『無駄ですわ。わたくしはあなたからは絶対に見えない場所であなたを見ていますもの』
「内容……は……」
『……刺青の天使のことですわ』
更新日:2011-04-09 16:42:02