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「先生、僕は、ノリが良くて、ツッコミが上手くても、友人の数が片手で余るなんて
方が悲しいですよ」
「お兄ちゃん、左手貸して?ちょっと一撃入れてあげようと思うから」

おいおい、紫が怒ってるよ!
そりゃそうだろう。僕だって友達は多くないが、更に紫には友達が少ない。
少ないと言うよりも、一人もいない。友人なんて皆無なのだ。
僕は、それよりも、柿本君だって、幻視王なんて呼ばれてる虐められっ子なんだから友達いないだろ?って言ってやりたかったけど。
言ってやりたいけど、教育者としての立場ってものがあるから、ここでは沈黙を守る事にした。
そう言えば、沈黙シリーズって、意外に沈黙していないよな。
派手だし、喋るし、何が沈黙なんだったっけ?
どうでも良い事を考えている僕に気づいた紫が、僕に向かって声をかけてきた。

「お兄ちゃん、またどうでもいい事を考えてたでしょ?」
「そんな事ないよ」
「噓!嘘つき!絶対に、どうせスティーブン・セガールとか考えてたんじゃないの?」
「お、お前はエスパーか?」

墓穴を掘ってしまった。
最後まで反論せず、驚いた事を口に出してしまうから、僕に隠し事は出来ないのだ。
だから、棗ちゃんにも殴られるのだけれど。
しかし、よく分かったな?本当に超能力でもあるのかな?
今度、調べてみようかな?
僕の迷走する思考を読むかのように、紫は言葉を発した。

「お兄ちゃん、そんな事はどうでもいいから、ちゃんと説明してあげてよ」

紫は、そう言うと、自分の教室に向かって去っていこうとした。
廊下に出る直前に、僕に振り返って机の上を指差し、一言発してから。

「お兄ちゃん、映画のDVD を学校に並べるのは、講師としてどうかと思うよ」

扉を閉め、去っていく紫の指差した場所には、なぜか沈黙シリーズが全部並んでいた。

更新日:2010-06-10 13:37:49

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