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金曜日

朝から、学園が騒がしい。
柿本猿丸から昨夜メールにあった殺人事件の事など忘れていた僕は、学園の異変で始めて「あー、殺人事件が起きたんだったっけ」などと呑気に思い出した始末である。

「幻視王に会わなきゃいけないなぁ」

僕の呆けた頭は、まるで他人事と言うか、本当に他人事なのだが、気の乗らない感じでぼそりと呟く程度の事だった。
どのような方法で犯人を特定できたとしても、僕達の異端の力で見た事は証拠にならない。
法廷では無意味な目撃者なのだ。
だから、国家権力に協力しようと思わないし、する義理も無い。
ブツブツと、そんな事を言っていると、いきなり後方から頭を小突かれた。

「義務はあるだろうが!義務は!」

僕をパンチングマシーンにでも勘違いしているかのような行為は、棗ちゃんであった。

「痛っ!死んだらどうするんだ!死んだら!死ななかったとしても、馬鹿になったら、どう責任取るんだよ」
「命のスペアがあるような奴に死ぬ心配なんてする奴いるか?」
「そんな便利なスペア。僕は持ってません」
「あれ?そうだっけ?」
「あぁ、一回死んだら終わりだよ」
「なんだ、普通の人間みたいな再生能力なんだな」
「だから、蜥蜴の尻尾みたいに言うな!」

朝からテンション高めで登場してくれる棗ちゃんだが、人気の無くなったところで、急に真面目な顔して声のトーンも下げて、棗ちゃんは話を始めた。

「紫ちゃんとお前の関係が一線を越えたのは、私が与えた薬のせいでは無いって事だけ教えておこうと思ってな」
「ふーん、じゃぁ、外的要因じゃ無いって事か?」
「そうだ、あの話は、ちょっとからかっただけの冗談だ。それよりも、私が、言っておかなければいけないと思ったのは、紫ちゃん、お前と同じ人間もどきだからな」

更新日:2010-05-29 06:30:26

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