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水曜日

挿絵 800*450

水曜日

昨日は、紫がトイレを襲われた程度で、それ以上の事件は何も起きなかった。
このイベントは、もっと大袈裟な馬鹿騒ぎだったはずなのだが、今回は何か雰囲気が違う。
神経を張り巡らせているが、特別に何か変った様子も無さそうだ。
ただ、平穏な世界が、この学園と言う名前の世界が歪んでいる気がして仕方が無いのだ。
紫をトイレで襲ってきた生徒って誰だ?
濃霧のように何も見えないモヤモヤが、僕の頭を埋め尽くしていた。
今日も、紫と一緒にトイレに行く。
どこでも一緒に行動するってのは変な感じだが、今週だけは特別としよう。
こんなに妹思いの兄なのだから、神様が何かプレゼントでもしてくれても良いだろう。
そんな、どうでも良い戯言を吐き出していた。
もっとも、神様は、欲しくも無いプレゼントを用意してくれていたのだが・・・・・・

「紫、お兄ちゃんトイレに行くから」

教室から出ようとする僕のシャツを、紫は思い切り引っ張った。

「駄目だよ。お兄ちゃんが、トイレに行ったら、紫が一人ぼっちになっちゃう」
「でも、お兄ちゃんだって、トイレ行きたい時があるんだけどな」
「じゃぁ、紫も一緒に行く」
「いや、ほら、お兄ちゃんは男だから、何て言うか、その・・・・・・うーん、参ったな」
「お兄ちゃんのなんて見慣れたから大丈夫だもん」
「いや、小便の方だからさ、トイレで他の先生に会った時に、横に紫がいたら・・・・・・」
「大丈夫だもん!お兄ちゃんが一人でトイレに行けない怖がりさんだから、紫が一緒にいてあげてるって言うから」
「そっちの言い訳の方が、お兄ちゃんとしては困るんだけどなぁ」
「お兄ちゃんは、紫の事心配じゃ無いの?」

拗ねた紫を置いて行く訳にもいかず、一緒にトイレに行く事になってしまった。
こんな状況の事は、何も考えていなかった。
考えるどころか、想像もしない展開だ。
トイレの便器の前に立っても、これじゃ出る物も出やしない。

「ねぇ、お兄ちゃん、出ないの?」
「ん?ちょっとな」

更新日:2010-05-28 22:12:09

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