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飛行機を鳥が追い越して

 
「行ってくる」
 踵を通し、靴箱に靴べらを置いて立ち上がった。

「行ってらっしゃい」
 廊下の先から返した妻は微笑んでいる。だが、それがどこか辛そうに見えた。

 いや、辛いのは私の心だろう。
 薄い鞄を片手にぶら下げて、冷えたドアノブを捻った。
 遅い朝の明るい光が世界に満ちる。
 重い足取りで〝世の中〟へ踏み出し、振り返りながら静かにドアを閉める。

 ……最近はもう、「頑張って」と言わなくなった。


 

更新日:2010-08-06 21:25:05

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