- 19 / 95 ページ
5-10/確かに名所だが目線が違う
力の増幅。
唐突にそういわれても、俺は思ったより冷静だった。
薄々は解っていた事だ。今までは確証がなかったから、“そういう体質”の一言で片付けていたが、今日、あのありがたいご先祖様を名乗る登美之慧の言葉で、漸く俺は全てを確信できた。
例えば沖縄でウグメが俺から離れようとしなかった理由も。
例えば百年眠っていたメロウが目を覚ました理由も。
例えば華子の能力が日に日に増しているのも。
例えばコアリがありえない力を発揮するのも。
共通項はあった。
“御鏡太郎”
俺がただ、渦中にいた――。
「華厳の滝。……名所ね。」
ウグメはいつも以上に不敵な目で、主に滝壺の方を睨みつけている。
日本三大瀑布の一つ。それから、日本三大神滝でもある。この日本の滝・ザ・ベストでV2を獲得したのは、この華厳の滝以外では和歌山の那智の滝のみである。問答無用の名所だ。さっきはすぐ帰りたいとかいったが、やっぱり来て良かった。
「名所ですねぇ。」
「名所よの。うようよおるわ。」
ウグメに続き、華子とコアリもしたり顔で滝を見つめていた。
……おい、お前ら? その反応は何かおかしくないか?
いや、確かに華厳の滝は“名所”だが。うようよおる? ナニが?
「知らないの? ここ、自殺の名所よ。」
「ぎゃぁぁぁあああああああああああああああああっっ!!!」
ウグメがツアーガイドみたいに滝の方に手を向けると、それに誘われた亡者どもがウグメの背後から飛び出してくる――即ち裸眼で3D映画の如き大迫力を体感させられた俺は年甲斐もなく絶叫を上げ、周囲の観光客から白い目で見られるのであった。
……来るんじゃなかった。こいつらと一緒には来るべきじゃなかった……!
楽しい思い出を台無しにすることにかけて定評のある悪霊どもめ!
「そうそう、この滝の下の――大谷川は町谷で鬼怒川と合流してるのよ。ご存知?」
「いや、地理はサッパリだ。続けてくれ。」
「鬼怒川は茨城の方で利根川と合流し、そのまま太平洋へ流れていくわ。つまり……、」
ウグメが、すっかり完治した右腕を振り上げる。するとそこに緩やかな空気の流れが生まれ、それに吸い込まれるように、俺の足は一歩二歩と、展望台の手摺りの方へ……。
え? ちょっと待てウグメ、お前、何を――
「そこの川に落ちて流れていけば、黙っていても太平洋に出られるという事よ。」
「おっ、落ちるぅぅぅうううううううぅッ!?」
「危ないっ!!」
物騒な言葉を放つウグメによって、展望台から転落させられそうになった瞬間だった。聞き覚えのある声と共に、俺の身体は片腕を支点にして宙を舞う。
気がつくと、そこは胸の大きな誰かの腕の中。あったか柔らかくて、もう死んでもいい……。
「メロウ。来てるんだったら、隠れてないで出てきたらいいじゃない。」
「わ、私は太郎様に迷惑を掛けまいと、影ながら……!」
転落寸前の俺を救出してお姫さま抱っこしてくれていた女が、ウグメの言葉にそう反論するのが聞こえる……。でも、なんかもう気持ち良過ぎて、幸せのあまり死んでしまいそうだ……。
「――はぅあ!! あっぶねぇ何考えてんだ俺ッ!? 降ろせッ、今すぐ降ろせーーっ!」
――何だこの辱めは! 旅の恥は掻き捨てとはよくいうが、俺に二度と日光の地を踏めなくさせる気かお前ら!!
力の増幅。
唐突にそういわれても、俺は思ったより冷静だった。
薄々は解っていた事だ。今までは確証がなかったから、“そういう体質”の一言で片付けていたが、今日、あのありがたいご先祖様を名乗る登美之慧の言葉で、漸く俺は全てを確信できた。
例えば沖縄でウグメが俺から離れようとしなかった理由も。
例えば百年眠っていたメロウが目を覚ました理由も。
例えば華子の能力が日に日に増しているのも。
例えばコアリがありえない力を発揮するのも。
共通項はあった。
“御鏡太郎”
俺がただ、渦中にいた――。
「華厳の滝。……名所ね。」
ウグメはいつも以上に不敵な目で、主に滝壺の方を睨みつけている。
日本三大瀑布の一つ。それから、日本三大神滝でもある。この日本の滝・ザ・ベストでV2を獲得したのは、この華厳の滝以外では和歌山の那智の滝のみである。問答無用の名所だ。さっきはすぐ帰りたいとかいったが、やっぱり来て良かった。
「名所ですねぇ。」
「名所よの。うようよおるわ。」
ウグメに続き、華子とコアリもしたり顔で滝を見つめていた。
……おい、お前ら? その反応は何かおかしくないか?
いや、確かに華厳の滝は“名所”だが。うようよおる? ナニが?
「知らないの? ここ、自殺の名所よ。」
「ぎゃぁぁぁあああああああああああああああああっっ!!!」
ウグメがツアーガイドみたいに滝の方に手を向けると、それに誘われた亡者どもがウグメの背後から飛び出してくる――即ち裸眼で3D映画の如き大迫力を体感させられた俺は年甲斐もなく絶叫を上げ、周囲の観光客から白い目で見られるのであった。
……来るんじゃなかった。こいつらと一緒には来るべきじゃなかった……!
楽しい思い出を台無しにすることにかけて定評のある悪霊どもめ!
「そうそう、この滝の下の――大谷川は町谷で鬼怒川と合流してるのよ。ご存知?」
「いや、地理はサッパリだ。続けてくれ。」
「鬼怒川は茨城の方で利根川と合流し、そのまま太平洋へ流れていくわ。つまり……、」
ウグメが、すっかり完治した右腕を振り上げる。するとそこに緩やかな空気の流れが生まれ、それに吸い込まれるように、俺の足は一歩二歩と、展望台の手摺りの方へ……。
え? ちょっと待てウグメ、お前、何を――
「そこの川に落ちて流れていけば、黙っていても太平洋に出られるという事よ。」
「おっ、落ちるぅぅぅうううううううぅッ!?」
「危ないっ!!」
物騒な言葉を放つウグメによって、展望台から転落させられそうになった瞬間だった。聞き覚えのある声と共に、俺の身体は片腕を支点にして宙を舞う。
気がつくと、そこは胸の大きな誰かの腕の中。あったか柔らかくて、もう死んでもいい……。
「メロウ。来てるんだったら、隠れてないで出てきたらいいじゃない。」
「わ、私は太郎様に迷惑を掛けまいと、影ながら……!」
転落寸前の俺を救出してお姫さま抱っこしてくれていた女が、ウグメの言葉にそう反論するのが聞こえる……。でも、なんかもう気持ち良過ぎて、幸せのあまり死んでしまいそうだ……。
「――はぅあ!! あっぶねぇ何考えてんだ俺ッ!? 降ろせッ、今すぐ降ろせーーっ!」
――何だこの辱めは! 旅の恥は掻き捨てとはよくいうが、俺に二度と日光の地を踏めなくさせる気かお前ら!!
更新日:2010-05-03 10:50:08