- 11 / 95 ページ
5-7/私の名前は登美之慧
「え、誰……お前。」
「……私の名前は……登美之慧。登美之慧です。今はそう名乗っておきましょう。……“ケイト”が、いつもお世話になっていますね、御鏡太郎。」
登美之慧。
私の名前は登美之慧。
藪を裂いて太郎とコアリの前に現れた女はそう名乗る。当然、そう名乗ったとしても、その名を漢字でどう書くのかまでは太郎には解らない。
だから、太郎は思った。
……なんだ、ケイトと同じ名前じゃないか。きっと違う字を書くのだろう――と。
その、あまりにも雰囲気の違う“ケイト”を、今までの“ケイト”と同一視する事は出来なかった。しかし、それは――
「ケイト……? は、はは……なんだよ、ケイトの……双子の、姉ちゃんか……?」
「いいえ。慧に姉妹はいません。私がケイトです。」
――それは、確かにケイトだった。
その手には一振りの刀が握られている。
私服女子が、白昼堂々、日本刀を?
そんなライトノベルよろしく、現実離れした光景を前に固まっていた太郎はコアリを庇うように立っていたが、太郎の想定した最悪の事態――ケイトが突然襲ってくるという事――には、どうやら至らない。
登美之慧は刀こそ持っていたが態度は穏かで、慈悲深い目で太郎を見つめていた。
……ケイトは、俺を御鏡太郎とは呼ばない。
お前は誰だ。ケイトの形をした、何なんだ……。
「……何処までお話しましょうか。“ケイト”の生い立ちについて。それとも、何故今日という日を迎えるに至ったのかを?」
「出来れば、そっちが気になるな。デートなんて、やっぱ嘘っぱちだったんだろ……?」
「えぇ、半分は。」
登美之慧は、ケイトと同じ悪戯な笑みを浮かべて応える。
半分かよ。期待させることをいうな。
「ケイトは、登美之神社の若き巫女です。」
「み、巫女ぉっ!? そんな神社、聞いたことねぇよ……!」
「くす。えぇ、ケイトの実家での話ですから。」
……あぁ。そういえば以前、ケイトはこんな事をいっていたっけ……?
――巫女服(それ)はもう着飽きた。
あれは、そういう意味だったのか……。
「そういう血筋ですから、ケイトは本当は、あなた以上の霊媒体質なのですよ。」
「ちょっと待てよ。そりゃおかしいぜ? だって、もしそうだったら何だって幽霊なんか探し回ってんだよ。」
「それは……私がケイトの記憶を封じているからです。」
「……は?」
寂しげに視線を落とす。ケイト……いや、登美之慧は刀の柄を固く握って呟いた。
「ケイトには、“普通”に生きて欲しいのです。」
「……普通?」
そいつは俺が今、一番欲しいものだな。
「沖縄での一件。あの時、ケイトは確かに海坊主や舟幽霊を目撃しています。」
「……!」
「え、誰……お前。」
「……私の名前は……登美之慧。登美之慧です。今はそう名乗っておきましょう。……“ケイト”が、いつもお世話になっていますね、御鏡太郎。」
登美之慧。
私の名前は登美之慧。
藪を裂いて太郎とコアリの前に現れた女はそう名乗る。当然、そう名乗ったとしても、その名を漢字でどう書くのかまでは太郎には解らない。
だから、太郎は思った。
……なんだ、ケイトと同じ名前じゃないか。きっと違う字を書くのだろう――と。
その、あまりにも雰囲気の違う“ケイト”を、今までの“ケイト”と同一視する事は出来なかった。しかし、それは――
「ケイト……? は、はは……なんだよ、ケイトの……双子の、姉ちゃんか……?」
「いいえ。慧に姉妹はいません。私がケイトです。」
――それは、確かにケイトだった。
その手には一振りの刀が握られている。
私服女子が、白昼堂々、日本刀を?
そんなライトノベルよろしく、現実離れした光景を前に固まっていた太郎はコアリを庇うように立っていたが、太郎の想定した最悪の事態――ケイトが突然襲ってくるという事――には、どうやら至らない。
登美之慧は刀こそ持っていたが態度は穏かで、慈悲深い目で太郎を見つめていた。
……ケイトは、俺を御鏡太郎とは呼ばない。
お前は誰だ。ケイトの形をした、何なんだ……。
「……何処までお話しましょうか。“ケイト”の生い立ちについて。それとも、何故今日という日を迎えるに至ったのかを?」
「出来れば、そっちが気になるな。デートなんて、やっぱ嘘っぱちだったんだろ……?」
「えぇ、半分は。」
登美之慧は、ケイトと同じ悪戯な笑みを浮かべて応える。
半分かよ。期待させることをいうな。
「ケイトは、登美之神社の若き巫女です。」
「み、巫女ぉっ!? そんな神社、聞いたことねぇよ……!」
「くす。えぇ、ケイトの実家での話ですから。」
……あぁ。そういえば以前、ケイトはこんな事をいっていたっけ……?
――巫女服(それ)はもう着飽きた。
あれは、そういう意味だったのか……。
「そういう血筋ですから、ケイトは本当は、あなた以上の霊媒体質なのですよ。」
「ちょっと待てよ。そりゃおかしいぜ? だって、もしそうだったら何だって幽霊なんか探し回ってんだよ。」
「それは……私がケイトの記憶を封じているからです。」
「……は?」
寂しげに視線を落とす。ケイト……いや、登美之慧は刀の柄を固く握って呟いた。
「ケイトには、“普通”に生きて欲しいのです。」
「……普通?」
そいつは俺が今、一番欲しいものだな。
「沖縄での一件。あの時、ケイトは確かに海坊主や舟幽霊を目撃しています。」
「……!」
更新日:2010-05-02 09:32:50