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小説

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【第0章】プロローグ 《序章》

第1話

  【あのときの僕は目に見える一つの壁を越えて、見えない壁を感じていた・・・】


 高速に流れる雲を見つめていた。

霧のような雲が晴れて一面の海が広がる。

 下降し始める機体でGを感じながらタイヤの着地音が響く。

両手で顔をはたいて、目じりにぐっと力を込める。

 空港の滑走路を横目に、遠い昔に見た景色を眺めるような眼差しの昭太郎は日本の初夏の陽射しにシャツの袖をまくった。

「とうとう帰ってきたなぁ…帰って来れたんだな…」
 と呟いて、ひとつ頷いた。

 足を引きずりながら、細身の体をゆっくりと動かす昭太郎。

 苦痛の中に笑みを浮かべ、トランクに寄りかかりながら一歩一歩を楽しむように足を運んでいる。

入国審査でパスポートを見せ、審査員に感慨深く頭を下げる。帰国団体より少し遅れてゲートをこえた昭太郎にストロボとシャッター音が浴びせられた。

パシャ・パシャ!パシャ・パシャ・パシャ!

「ご帰国の感想をどうぞ!」
マイクを向けられた昭太郎にカメラが寄る。

「手術は成功したんですよね?」駆け寄る記者。

まるで外タレの来日のような大勢の人々に帰国を歓迎され、鳴り響く太鼓やラッパ音のなかハイタッチと握手は繰り返された…。

 笑顔と泣き顔にまみれながら一つ一つ「ありがとう」を繰り返し、頼りない足を引きずりながら握手やハグで応える昭太郎。


第2話

 記者に導かれて立ち止まる。
 大騒ぎだった会場が昭太郎がそこに立つ姿で静かになったとき。

一呼吸して、はじめた。
「本日は遠いところありがとうございます。わたくし、大林昭太郎はオーストラリアで肝臓移植手術を無事に終え、帰国することができました。出発するとき、実はもう帰ってくる事はできないかもしれない・・・なんて思ったりしましたが、今、無事に手術を終え、ここにいることが嬉しくてたまりません。ほんとうに・・・本当にありがとうございました」

 選手宣誓をするような調子ではじめたが、後半こみあげる泪をこらえきれず、思っていた半分以上も言えないまま、頭を深く下げていた。
 

【そう、僕は無事に海外脳死肝移植が成功してオーストラリアから帰国したあの日、まだ痛む腹の傷に嬉しさを覚え、また皆に会えた感謝そして2度目の人生の重みを感じてはいたが、何処かで俯瞰的に自分を見ていた。

そして、この帰国だけを目標に生きてきた僕はこれからの生活に戸惑い、ただ笑顔を絶やさないことに精一杯だった・・・。】


 会場では花束の贈呈が行われる。
 花束嬢から大きな花束を受け取る昭太郎。
 昭太郎は会場を見渡しながら、何かを囁いたように見えた。
 その花束嬢は心なしか、目が潤んでいる様だった。

 拍手が鳴りやまない会見会場。

「このたびは、凱旋帰国オメデトウございます!」

「サインしてください!」

 叫び声のタイミングに再びカメラが寄る。
「では昭太郎さん、現在のご心境をTVの前の視聴者皆さんに向かってひと言」

昭太郎は両手を挙げて、その場を制した。

再び、緊張感を取り戻した会場。

昭太郎はニッと笑みをもらして叫んだ。

「あほか!」

 !!!!!?







更新日:2011-03-07 03:03:03

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