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「成長……って、そんなに早いものじゃないでしょう?」
 疑問に思ったのか、松崎が口を挟む。今まで黙っていた紫月がそれに応じた。
「そうでもありません。今、この瞬間にもこの木は呼吸し、細胞が分裂しています。要はその生命活動によって、悪魔の出現が紛らわされてしまっていたということなんです」
「それを防ぐには、どうすればいいんだ?」
 那賀谷が眉を寄せて尋ねる。こともなげに咲耶は答えた。
「人の出入りを制限することですね。建物の中に何も持ちこませず、どんな人間も通さなければ完璧でしょう。一番いいのは、建物自体を封鎖することですが」
「そんなことができる訳ないだろう! 一体どれほどの損失になると思って……」
「訊いた筈ですよ、那賀谷さん。生命と金と、どっちが大切だって言うんです?」
 咲耶の言葉に、那賀谷が詰まる。
「まあ、この建物に張っていた結界は強化しておきましょう。だけど、こういう手を使われた以上、最悪の手段も考えておいてくれますか?」
「いつまでもこんなことが続くようでは困るんだ、守島くん」
 咲耶が頷いて同意を示した。
「判っています。黒幕の目星も大体つきました。一両日中には、この騒ぎを全部収めてみせますよ」


「結構大きな口を叩くんだな、君は」
 帰り道に、感心したような呆れたような口調で、紫月が言った。きょとんとして、咲耶がそれを見返す。
「依頼人に言ったことか? 別に大風呂敷を広げた訳じゃないぜ。この分なら、多分あと一日ぐらいで何とかなるだろう。それに、まあ、やたらと不安がらせたって仕方ないからな」
 そして、少年は長く欠伸をした。
 再び仕事にかかる前に、何時間かでも仮眠が取れないだろうか、と考えつつ。
 しかし、その目論見はあえなく潰えた。
 彼らが帰り着いたとき、守島咲耶が住んでいた部屋は、ほぼ黒焦げになっていたのだ。

更新日:2008-12-17 21:35:22

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