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 相手が姿を見せたのは、約束の五分前だった。痩せぎすの、スーツ姿の男。ちらりと店内を一瞥して、咲耶へと近づく。
「守島さん、ですか?」
 頷いて、咲耶はカウンターの前から立ち上がった。
「松崎さんですね。向こうへ行きましょうか」
 マスターに目で合図して、奥のテーブルへと向かう。その後ろ姿を眺めながら、松崎はやや不安そうな表情を隠せないようだった。
 二人が椅子に落ち着くやいなや、松崎が口を開く。
「失礼ですが、守島さんは……その」
 しかしそこで言葉を濁した彼に、咲耶は軽く苦笑した。
「俺が本当に、貴方の捜していた『拝み屋』なのかどうか、疑問をお持ちなんでしょう?」
 無理もない。
 守島咲耶は、今年で十七歳になる。服装は白い無地のTシャツにジーンズ、更に八月も半ばを過ぎたというのに、黒の革のジャケットを羽織っていた。手には揃いの黒い革の指なし手袋をはめている。腰まで伸びた長い黒髪は、無造作に白い組み紐で一つに括ってあった。ありとあらゆる『拝み屋』のイメージからはほど遠い。
 しかし、咲耶は自信たっぷりに続けた。
「俺は物心つく前から、この手の修練を積んできています。拝み屋として仕事をし始めたのは二年前ですが、達成率はほぼ百パーセントと言っていいでしょう」
「ほぼ?」
 松崎が、神経質な視線を向けてくる。
「時々、少しばかり後ろ暗い依頼人が来るんですよ。他人を呪おうとしたりとか、俺を騙そうとしたりだとか。まあ、そういうのは報酬を貰ってないから、厳密には依頼とは言えないんでしょうけど」
 軽く肩を竦めて、少年が答えた。その言葉に安心したのかどうかは判らないが、松崎は仕事の話を始めることを決心したらしかった。マスターがコーヒーを二つ置いていくのを待って、口を開く。
「私は、『株式会社ナガタニ』という会社で、秘書課長という役職に就いています」
 そう言いながら、松崎は名刺を差し出した。
「ナガタニというと、あの大きなスーパーの?」
 咲耶の言葉に、頷く。
「実は三日前、本社の方に、その……。出た、んです」
「出た?」

更新日:2008-12-15 21:55:16

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