• 22 / 106 ページ

第二章

「……あ。マスター? 守島ですけど。龍野さん、来てます?」
 咲耶は、電話ボックスの中にいた。だらしなく、四角い電話機に上体をもたせかけている。
 数秒の間をおいて、相手に受話器が渡った。咲耶がやや身体を起こす。
「あ、すみません。ちょっとお願いしたいんですけど。杉野って奴を調べられますか? 杉野孝之。大学の講師らしいんです。そいつと、聖エイストロス教団って宗教団体との関係を。……うん、正式な資料には載ってないんで。でも、絶対何か接点がある筈なんですよ。こっちも、独自に調べてはみますけど。あ……あと」
 一瞬言い淀んで、続ける。
「その杉野の養子で、弥栄って奴のことも。何でもいいんです、お願いします」
 受話器を置いて、溜め息をつく。
 電子音が、しきりにカードを取れと彼に促す。だがしばらくの間、彼は全くそれを無視していた。
 ……弥栄。


 夕方、咲耶と紫月を乗せた式神は人気のない公園に降り立った。
 ずっと無言だった紫月が、ようやく口を開く。
「……手を貸してくれたことには、礼を言う。だけど、杉野のことに関して、僕が話すことは何もない」
「あんた、そんなにその養父のことが好きなのか?」
 咲耶の言葉に、紫月が鋭い視線を向ける。
 薄く笑みを浮かべて、咲耶はそれに対した。
 彼の言葉から、養父への好意など欠片も感じられなかったことを逆手に取ったのだ。この挑発に乗る可能性は、非常に高い。
 ……しかし、紫月は数秒の後に視線を逸らせた。
「君には関係ないことだ」
 なかなかに、手強い。
「じゃあ、別のことを訊こうか」
 紫月の不審そうな視線を受け流す。
「あんた、先刻俺の式神を見たってのに、平然としたものだったな。どういう神経してるんだ、一体?」
 確かに、咲耶の行動は軽率だった。普通の人間なら、あの式神を目にした時点で極度のパニックに陥っていても不思議はないのだ。ただ肝が座っているというだけでは、紫月の平静さは説明できない。
「……そんなことを君に言われる筋合いはないな」
 しかし、言い捨てるが早いか、紫月は踵を返した。
「おい、弥栄……!」
 ほんの、数秒。
 木立の中に姿を消した少年は、またしても行方をくらませていた。

更新日:2008-12-20 19:02:37

  • Twitter
  • LINE
  • Facebook