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「一体何なんだ、奴らは?」
 社長室の扉をくぐりながら、那賀谷泰三は怒声を上げた。
 申し訳ありません、と五十代半ばの男がその後ろに続きつつ頭を下げる。
 苛々と那賀谷は椅子に身を沈め、苛々と煙草に火をつけた。
「地主はもう売り渡しに同意しとるんだろう? あいつらがいくら我を張っても意味がないんだ。それぐらいの判断もつかんのか、全く!」
 どこからか聞こえた水の滴るような音に、那賀谷は一層腹立たしくなった。
 ……水?
「社長、あれは……?」
 大人しく那賀谷の愚痴を聞いていた男が、突然、絶叫寸前の声を上げる。視線が、那賀谷の背後を凝視していた。
 ゆっくりと、そちらを振り向く。
 ヴェルヴェットのカーテンが、壁際に重たく垂れ下がっている。その横にはダークブラウンのチェストが置いてあり、青磁の壺が静かに存在を誇示していた。
 ちょうど、そのチェストの前の絨毯に大きな染みができている。
 ぽたり、と目の前で雫が落ちた。
 その上には。
 那賀谷が、恐怖に目を見開いた。
 天井から、今まで見たことのないものが逆さまに上半身を突き出してきていた。更に下半身を抜け出そうとしているのか、ぬらりとした鱗に覆われた両腕を天井につく。
 その紫色がかった三つの瞳で人間たちを認めたか、怪物はこの世のものとは思えないような叫び声を上げた。

更新日:2008-12-15 21:54:42

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