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プロローグ
つくづく広い部屋だ、と思う。
祭壇の上に立っているにも関わらず、アーチを組み合わせた天井は遙かに高く、視界のあちこちに闇がわだかまっている。数少ない灯りは、床から三メートルほどの高さの壁にいくつか取りつけられている燭台だけであった。
眼前には、そのぼんやりとした光によって、数多くの蠢くものどもが照らし出されていた。
細い腕。そして白い脚。
絡み合ういくつもの身体。
そのぬらりとした質感から考えるに、どうやら衣服は身につけていないようだ。
彼らが無秩序に立てる物音や声が、虚ろな空間に充満する。しかしその場を支配しているのは、それを圧倒して響く、低い歌声だった。
焚きしめられた香が、鼻につく。
「犠牲の子羊よ、今こそ血の洗礼と共に、我らを背徳と栄光への道に誘いたまえ」
背後からのあの男の声に促され、足下に一人の男が近づいた。痩せこけた貧相な顔立ちがかろうじて印象に残る。
素足に口づけられる。ざわり、と身体の内側に波が立った。が、意識はどこか冷めている。どうも、他人事のようなのだ。
男の唇が脚から離れた。湿っぽい掌が、まだ幼さを残した身体を、強く掴む。
腹部に、金属特有のひやりとした感触が走る。
それは、一瞬にして燃え上がるほど熱くなった。温かい液体が勢いよく肌を濡らす。
少年は無感動な瞳のまま、立ち尽くしていた。
祭壇の上に立っているにも関わらず、アーチを組み合わせた天井は遙かに高く、視界のあちこちに闇がわだかまっている。数少ない灯りは、床から三メートルほどの高さの壁にいくつか取りつけられている燭台だけであった。
眼前には、そのぼんやりとした光によって、数多くの蠢くものどもが照らし出されていた。
細い腕。そして白い脚。
絡み合ういくつもの身体。
そのぬらりとした質感から考えるに、どうやら衣服は身につけていないようだ。
彼らが無秩序に立てる物音や声が、虚ろな空間に充満する。しかしその場を支配しているのは、それを圧倒して響く、低い歌声だった。
焚きしめられた香が、鼻につく。
「犠牲の子羊よ、今こそ血の洗礼と共に、我らを背徳と栄光への道に誘いたまえ」
背後からのあの男の声に促され、足下に一人の男が近づいた。痩せこけた貧相な顔立ちがかろうじて印象に残る。
素足に口づけられる。ざわり、と身体の内側に波が立った。が、意識はどこか冷めている。どうも、他人事のようなのだ。
男の唇が脚から離れた。湿っぽい掌が、まだ幼さを残した身体を、強く掴む。
腹部に、金属特有のひやりとした感触が走る。
それは、一瞬にして燃え上がるほど熱くなった。温かい液体が勢いよく肌を濡らす。
少年は無感動な瞳のまま、立ち尽くしていた。
更新日:2008-12-15 21:54:27