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男好きなS

 建設関係の中小企業に勤めていた頃、6歳先輩の女性社員、Sがいた。取り立てて美人でもなかったのだが、由美かおるを思わせる何ともいえない色香を漂わせては、男を吸い寄せて餌食にする、あり地獄のような女性だった。
 そんなことをいうと、“さらさらって、人の悪口をべらべら喋る、信用の出来ない人だよね!”って思う方もいるかもしれない。しかし、その当時若くて鈍かった私に、「見てごらん! わざわざ襟ぐりが開いた服を着て、キスマークを見せびらかしているよ!」と周りの人が皆教えてくれたり、本人自ら前日の飲み屋での一部始終を語り、「昨日、好きなタイプの人がいたから、また会えるように手帳を抜き取っておいたの!」などと、堂々と不倫を宣言してみたりしていたので、本人は“複数の異性と交際する”ということを、“男にモテる”ことだと思っていたようなのだ。それゆえ、真実を語られたところで、彼女にとっては武勇伝に過ぎないということを、ご了承願いたい。

 そもそも、彼女がその会社に入社する前勤めていた会社で、男性は6~7人いたそうだが、そのすべてと関係を持ち、男性同士でそのことがバレて喧嘩になり、その会社にいられなくなったそうだ。それでも、その会社の上司は、自分と関係を持った可愛い女の子を何とかしようと、当時下請けのウチの会社に頼んで雇ってもらったそうだ。
 まったく、バカみたいな男社会の論理だと思う。
 当然、ウチの会社に来てからも、彼女に食われた男は数知れない。3~40人位いるのではないかというもっぱらの噂だった。

「あたし、お見合いしたの」
 あるとき、Sがすっぽん料理屋で行われた、見合いの一部始終を語って聞かせた。
「変な髪形だった」だの、「すっぽんの生き血を飲んだ」だの、あまり心が弾まなかったことを強調していたが、モテることを自慢したいのはミエミエだった。

「誕生日に手作りのケーキと、黄色いバラをもらったの」
 パティシエがモテる、今の時代の話ではない。しかも、ケーキを作ったのは気の弱そうな男で、ご丁寧に黄色いバラの花言葉まで書いて寄越したそうな。
“黄色いバラの花言葉は、嫉妬”
 どうやら彼は、Sの男達の一人に嫉妬していたらしいが、彼は残念ながらSのストライクゾーンではなかったようだ。

 またあるとき、会社で温泉旅行に行った。そのとき、Sは男と別の部屋に泊まった。断っておくが、その男はまったく別な会社の社員である。
「隣の部屋で、盗聴しようか? 声が聞こえるかも!」
 そんな不謹慎な冗談を言う者に対して、説教する者はいない。だって、「会社の温泉旅行で別な部屋に泊まるなんて非常識な!」と、お局Sに説教する者もいないのだから。

更新日:2010-05-08 00:21:21

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