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東京タワーまでKと歩いた

 中学時代からの腐れ縁で、1年に何度かは会って飲んだり食べたりする友人のK。
 高校時代、通学に1時間掛かる道のりを毎日一緒に通い、ほとんど地下鉄でしゃべることもなく、壁に持たれかかりお互いに居眠りしていた。
 毎日毎日顔を合わせるので、話の種もなくなってしまうのだ。

 Kと一緒に買い物をしていた時、二人ともセーラー服を着ていたのにもかかわらず、彼女だけ「奥さん! 買ってかない?」と、主婦呼ばわりされていたことがある。
 セーラー服を着た奥さんって、あんた、それって……。
 Kが憤慨していたのは言うまでもない。

 そんな二人の関係がにわかに活気をおびてくるのは、お酒の味を覚えた頃。酒が入ると明るくなる、典型的なサラリーマン体質のA型同士、会話も弾む。
 80年代のポップスの話やら好きな本の話、映画の話から宗教政治に至るまで、酒が入ると話が尽きないので不思議だ。あまりにも若い(その当時)女の話す内容とはかけ離れているため、男は寄ってこないどころか、遠ざかる始末。
「さっきの二人組みの男が、帰る間際に『女の癖に政治の話なんかするなよ!』とかいってるのが聞こえて、酔いが醒めちゃった」
 Kは酔っていても、ちゃんと周りを見ていた。
 私はといえば、酔って話に夢中になると、周りのことなどどうでも良くなるので困ったものだ。
「そうだ! 政治家は思想性がなければならない!」
 お互いに他宗教だったため、好きな政党は違ったが、そんなことは問題ではなかった。熱く語ることが大切なのだ。
「上司にも思想性がなければならない!」
「社会は女の能力をもっと認めなければならない!」
 いい気分で酔っ払っていた女と、半分醒めかけた女二人を残し、気がつけば周りには誰もいなくなったのだった。

 またある時、懸賞でサーカスの旅が当たり、二人で東京へ遊びに行ったことがあった。〝ファシナシオン〟とかいう、フランスのサーカス。席は末席で米粒のように小さく見えたが、結構面白かった。
 その帰り、東京で食事をすることになった。計画性のない二人は、東京を当て所もなく彷徨った。
「あっ、東京タワーだ! あっちの方に行ったら、何かあるんじゃない?」
 東京タワーといえば東京のシンボルのようなものだ。観光地に食事処がないはずがない。
 そういう田舎モン丸出しの考えで、ややしばらく歩き続けた。しかし、30分、1時間と歩き続けてもなかなか東京タワーにはたどり着かない。
「やっぱり、山手線に乗ればよかったね……」
結局タクシーで山手線に乗り、渋谷で適当な店に入った。
「ほうれん草サラダと、ビール!」
 その時のビールの上手さは、今でも忘れない。

 最近は二人で会うことは少なく、高校時代の友人四人で合うことが多い。

 ちなみに、バツイチを一人含め、四人とも未だ独身だ。

更新日:2010-04-23 15:13:33

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