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弁の立つ妹

 去年の秋ごろ、妹が結婚を前提にお付き合いをしている人を我が家に連れてきた。最初はただ、電動式ロデオを家へ運ぶため、行きつけのお寿司屋さんに頼んで車に載せてもらったという理由で紹介された。
 電動式ロデオとは、文字通り電気で前後左右に動く馬の事で、木馬のように頭が付いているわけではなく、つるんとした黒っぽいボディーに足を引っ掛けるつり革が付いている結構でかい健康器具だ。
 父が脳梗塞で倒れて以来、妹は何かと父の健康を気遣って、キウイフルーツだの、えごま油だのいろいろと買ってくる孝行者なので、そのこと自体はそれほど奇異には思わなかった。しかし、ただ載せてもらっただけなら、名前を紹介するにしても人名ではなくお寿司屋さんの店名を紹介するのが普通だろう。ところが、妹はその男性のフルネームをわざわざ丁寧に紹介したのだ。
 もしや……。
 母と私は、もしかしたらそういう事なのではないかと、心の中では思っても口に出さずにいた。慎重で弁舌の上手い、口では誰も適う者のいない妹のこと。時期が来たら自分から言うだろう。
 果たして、その時期はすぐにやって来た。

 それから一月ほど経ち、妹から電話で「結婚しようと思う」と宣言された。
――やっぱり――
 母と私は、お互いの予感を確かめ合った。一人父だけは、やはり面白くなさそうだったが、「感じの良さそうな人じゃない!」とか、「手に職がある方がいいよ!」などと母と二人で説得し、食事会を二度ほど開き、めでたく入籍した。
 次男と次女のカップルで、二人とも手先が器用で、働き者で、親孝行のなかなか出来た人たちだ。
 姉妹とはいえ、私とは全然違う人種。

 ちなみに、出会いはヤフーのサイトらしいが、私は昔妹に、「頼むから結婚相談所とかで結婚相手なんか探さないでよね」とかいわれた記憶がある。みっともない、という理由だったのではないか。

 そんなこと、忘れてるんだろうなー。

更新日:2010-04-22 23:45:46

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