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すごい人たち

 このつまらないエッセイを読んで下さっている奇特なあなた! この世の中で一番割に合わない大変な仕事をご存知だろうか?

 一番かどうかはともかく、「客室清掃」という仕事は比較的割に合わないと思う。 私のように、「ダイエットしたいから」などという甘い理由で就職しようものなら、簡単にくじけてしまうキツーイ仕事なのだ。

 私はこの2年で10キロは太った。これは、生活習慣病に影響のある大変由々しき問題で、洋服もおしゃれな服は袖が通らないし、少し走っても疲れるという百害あって一利なしの状態だ。

 そこで、何とかしようと思い、肉体労働を始めた。以前、工場で12時間の夜間労働を平気でこなしていた私は、簡単に考えていた。8時間くらいなら大丈夫だろうと。

 しかし、世の中そう甘くはない。

 私はいわゆる「ルームメイク」ではなく、メイクさんが終えた仕事をチェックする「チェッカー」というセクションに回された。まったくの初心者がこなせるのか不安だったが、「やってみたら?」という面接者の方の一声で気が付いたら次の日から始めていた。

 最初の日は、午前中いっぱいかかってベッドのシーツ掛けを練習した。不器用な私は未だにきれいに出来ないが、バスルームの清掃などひととおり教わり、とりあえずその日の午後から一人でやらされた。

 初日はたった3室だったが、次の日には5室になった。1週間後には6室になり、その2日後には7室になり、次の週には8室、9室になった。

 バスメイクは、力をこめないとカビが落ちず、落ちていないとやり直しさせられる。乾いたバスを触ると、カビがついているとつるっと手が滑らないのだ。身長の低い私はバスルームに入り、力をこめて四面を擦らなければ為らない。

 初日は素手でマジックリンをさわり、手がひび割れて血がシーツについてしまった。それで、絆創膏を一本の指に3枚重ね、4本くらいの指に巻いて、その上からゴム手袋をはめて清掃した。

 バスルームには、髪の毛一本落ちていてもいけない。終わった後念入りにしゃがんでチェックする。ベッドを引っ張るとき、また、ベッド下の忘れ物をチェックするとき、コーヒーなどの補充をしたり、棚やゴミバコを吹き掃除するとき、しゃがむことが多い。

 これが腰に来る。最初の2週間は、腰にフェルビナクを張って耐えたが、未だに起き上がるときは腰が痛い。

 チェッカーさんは、一フロアに一人受けもっている。見習いである私の仕事も、すべてチェックされる。とうぜん、毎日叱られる。

「髪の毛落ちてる」

「トイレの横が濡れている」

「麺棒が入っていない」

「タオルの掛け方が違う」

「鏡が曇っている」

「シーツはちゃんと中にしっかり入れて」

「ハンガーの向きが違う」

 などなど。

 毎日叱られても、また明日叱られる学習能力のない私は、ご飯を食べる暇もない日もしばしば。

「食べないと集中力が出ないから、食べてね」と言われても、その10分が惜しい。労働基準法もあったもんじゃない。

 みんな、よくこんなキツイ仕事を続けていると感心する。ちなみに、、メイクさんは朝9時半から3時半までに14室もメイクできるそうだ。

「絶対チェッカーになるんだ! という気持ちがないとなれないよ!」

 と言われるが、「時給700円で(750円までは上がるそうだ)よく出来ますね」とは決して言えない。

 多分、続かないだろうな……。

 ただ、確実にこの2ヶ月でジーンズがゆるくなったのは事実だ。








 

更新日:2012-03-20 17:12:27

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