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ACT3:死神とオルデン傭兵部隊

 連邦地球陸軍所属:傭兵部隊の前線基地は、月面のコロニーに在る。ソウル太陽系以外の様々な星系の民族も居るが、矢張り地球系(ヒューマン)の割合が一番多い。短期間で爆発的に人口が増大した地球系は、他星系人に比べ貧富の差が激しいのである。
 航宙歴:575年。登録窓口で入隊の手続きを済ませたヒカルは、支給された真新しい階級バッジを襟に付け、荷物を部屋へ運び入れた後、見知った顔を捜しながら、レストルームへと入って行った。
辺りを見渡しながら昔と変わらない光景に、何だかこそばゆい気持ちになっている。そう言えば、よくここでトーマとテッドの3人で、ミーティングをサボったものだった。
(流石に3年以上も経つと、知らない顔の方が多いか…)
 郷愁に思いを馳せるヒカルの背後から、突然大きな声が掛かった。
「おいっ、そこの!」
 ガラの悪い声に思わず振り返ったヒカルは、大柄な髭面の親父に抱き締められていた。
「うわっ、誰だよ!」
「やっぱりヒカルか!?いつ戻って来たんだ?」
 もがきながら顔を上げたヒカルを、男は柔和な顔で見下ろしている。
「テッド!?久し振りだね、まだくたばってなかったか!今さっき、入隊手続きが終わったところさ」
 襟元のバッジを見て、不服そうにテッドは唇を尖らせる。
「新しいバッジか…。軍曹?お前ならとっくに中佐になっててもいいだろうに」
「傭兵部隊は規則で【軍曹】が最高ランクだろ。忘れたのかい?」
「何だ?まだ有効だったのか、あの規則は」
 呟く彼に、周りを見渡しながらヒカルは訊いた。
「それよか、古株はテッドだけか?ルドガー達は?みんな、元気にしてるかい?」
 訊かれたテッドは、言い難そうに下を向く。
「ルドガーの野郎は、お前が除隊した次の年に殺られたよ。他の連中もリタイアするか、殺られるかのどっちかだ。ここは長生き出来る場所じゃない、お前も嫌って程知ってるだろ?」
「そうか…、すまない。またみんなに会えると思って、浮かれ過ぎたな」
「謝る事はねぇさ。俺は最後におめぇに会えて嬉しいんだからよ、これでここも安泰だぜ!」
「最後?」
 弾かれたように訊き返すヒカルに、テッドは頷く。
「ああ。次の出動の前に、俺は連邦本部へ異動になる。…何でも連邦宇宙局内に新たな組織を創るとかで、俺に白羽の矢が当たったって訳さ」
「連邦宇宙局に新組織だって?」
「俺らみたいな白兵戦のプロを作るそうだ。で、俺が初代隊長って事」
「あんたが隊長だって?…冗談だろ?」
 思わずヒカルは、疑義の目をテッドに向けた。彼の昔の素行を思えば、到底信じられない話だからだ。
「大真面目な話だぜ。…おいおい何だ、その胡散臭げな顔は?ここでも一応隊長なんだぜ?隊の名前も、もう決めてある。ここが【騎士団】だから、俺のチームには“アゾート”って付けるんだ!悪くないだろ?」
「アゾート…【賢者の石】か。いい名だね」
「ヒカル。これから軍も改革で色々あるが、絶対におめぇの居心地は良くなる筈だ。負けんじゃねぇぞ!」
 いつになく真剣に、テッドはヒカルに言う。
「俺は、おめぇやトーマには、何1ついい事をしてやれなかったからよ。本部じゃ、おめぇと同い年の連中が、やっとデビューしたって言うじゃねぇか。ガキの頃から最前線に居るおめぇにだけは、俺は辛い思いをして欲しくねぇ!いいな、居心地が悪けりゃ、変えていくんだぜ、ヒカル」
 自分が復帰するまでの間、テッドがずっと心配してくれていた事に、深く感謝するヒカルであった。大きく頷き、彼を見上げる。
「あれから3年。俺も、もうガキじゃない。心配してくれて有難う、その気持ちだけで充分さ」
 2人が固い握手を交わしている所へ、鳶色の髪の青年が走り寄って来て、何とも軽い声を掛けてきた。
「隊長~ぉ。隊長、こちらでしたか。捜しましたよ。 ―あれ?」
「あ!」
 互いに指差し合い、ヒカルと青年はその場で固まっている。青年が晴れやかな笑顔になる一方、ヒカルは眉を寄せ厭~な顔をしていた。青年とヒカルとを見比べながら、テッドは青年へ声を掛けた。
「知り合いなのか、ケイン?紹介しよう。今度俺の代わりに部隊を指揮する新・隊長の、ヒカル・カトー軍曹だ。―軍曹、こっちは部隊の隊員で…」
 テッドの言葉を遮って勢いよく敬礼を取ると、青年は元気よくヒカルに挨拶をした。
「お久し振りでありますっ、カトー教官!」
「…ケインか。何でお前さんがここに居る?」
 眉間の縦皺を益々深くして、ヒカルは呟く。彼の様子を気にしつつ、テッドはケインに訊いた。
「教官?ヒカルが?」
「隊長、前にも話したでしょう?アカデミーで年下のくせに、鬼のように強い教官が居たって!」

更新日:2010-04-11 17:40:13

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