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序章

 航宙歴:561年(AD3061)。人類が月の大地に偉大なる一歩を踏み出してから、早1千年あまり。人類が宇宙へと進出し幾多の星間戦争の末、宇宙連邦に属してから300年を過ぎた頃…。
 地球系民族(以後、ヒューマンと称す)には、最早【国】という概念は無くなり、代わりに【出身惑星】が使われ、ソウル太陽系では第3惑星:地球から第7惑星:天王星まで、人類が棲むようになっていた。
その頃の地球は既に自然界は破壊し尽くされ、動物達は生命維持装置付きの動物園内で生活を送っている環境だった。そんな大地で作物など育つ筈もなく、スペースコロニーと共に人類は他の惑星で作物生産を計っていた。
 ソウル太陽系・第4惑星:火星は、太陽系の中でも一番の穀物生産量を誇る大農業惑星だった。大地は一面麦畑で覆われ、訪れた者は古き良き時代の、古代:アメリカの地を思い描くという。
またその一方で、火星は最先端科学の地としても、全宇宙にその存在を知られていた。最先端科学の産物である【人造擬体】(バイオロイド)の研究第一人者である天才科学者:ドクター・カーク博士が、終世の地として火星に人造擬体用の巨大研究所を構えていたからである。
 人造擬体はこれまでのアンドロイドとは異なり、より人類に近いとされている。人工臓器の体内には人工血液が駆け巡り、人工皮膚下の毛細血管にも血が通っている為、汗を掻き血を流す事も可能。無機体でありながら、超・有機的存在なのであった。
アンドロイドでは実現不可能だった量産にも成功し、また僅かな紫外線と光さえあれば、エネルギーの補充も必要としない人造擬体は、半永久的人材として新たな労働の担い手になり、今や宇宙各地で活躍する存在と化していた。人造擬体の登場により、ヒューマン達は連邦加盟より300年、正に黄金期を迎えていた…。

 ヒューマン達が大宇宙へ飛び立ち、異星人から数多の英知を得る代わりに、大きな犠牲を払う事になろうとは、よもや宇宙連邦の重鎮達も予想だに出来なかった。航宙歴:561年、その悲劇は起こったのである。
 火星の大地が黄金色に染まった初夏の或る日、カーク博士は突如発狂し、1つのプログラムコードを実行した。ボタンを押した瞬間、火星の大地は大きな揺れと共に大気を調整する機械が暴走を始め、あろう事か酸素と共に放射能を大気へ放出し始めたのだった!
そして、その巨大地震が狼煙だったのか、全宇宙の人造擬体達が突然人々を襲い出したのだ。人類を絶対に襲わないと強制プログラムをかけているにも関わらず、プログラムなど端から存在しないかの如く、忽ち対・人造擬体との戦火は瞬く間に全宇宙へと広がって行った。
 優れた身体にコンピューターの頭脳を有する人造擬体。それと火星からの資源の供給ストップによる混乱から、人類は誕生以来、かつてない危機に見舞われてしまったのであった…。

更新日:2010-04-07 20:22:55

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