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小説

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小学校時代

(1)

 ワシらがピカピカに光る大きなランドセルを背負って入学した鶏鳴(けいめい)小学校は古い木造建築だった。よく昔の映画に出てくる田舎の小学校という感じで、古いがあじのある建物だった。まるで昔の官庁の建物のように厳しく広い玄関は昭和初期そのままの空気を残していた。木製の階段は幅が広く、よく磨かれた手摺りがついていた。教室や廊下の窓の木枠は細くガラスも薄かった。ワシらが小石を投げれば簡単に割れるガラスだった。風の強い日にはがたがたとうるさかった。教室の床は歩けばみしみしと音がするほど古く、上の階の足音はよく聞こえた。備え付けのストーブには煙突がついていて、天井をつたって窓の外までつながっていた。戸も窓も老朽化で建て付けが悪く、なかなか開かないところもあった。黒板には長い年月で残ったどうやっても消えない字が幾重にも重なってかすかに残っていた。校舎の裏はすぐに山で、削った崖が窓から目の前にせまっていた。表には運動場が広がり、校舎の反対側の端には大きなポプラの木が並んでいた。このポプラ並木はこの頃を象徴する風景でよく印象に残っている。運動場の片隅には今では見かけなくなった百葉箱があった。ワシは中に何が入っているのか知りたくて、よく隙間から覗いたものだった。理科の授業で初めて中を見た時は温度計しかなかったのでちょっとがっかりした。運動場からポプラ並木を隔てた外側には2メートルほど高い土手状になって道路が走っていた。道路の向こうは川になっていたのでその道は文字通り土手の役目をしていた。ワシらはこの土手を登って道路に上がれるかどうかを競ったものだった。2メートルほどのコンクリートの土手は傾斜があり、勢いをつけて走り上がればそのまま道路に出ることができたが、低学年には難しかった。誰かが成功するとそいつは“すごいやつ”として一目置かれた。校舎の向って左側にはこれまた大きな木造の体育館があり、その手前に給食センターがあった。それぞれの建物は渡り廊下でつながっていた。この渡り廊下というものもどこか懐かしさを感じさせるものだ。よその学校でもこれを見ると母校を思い出す。
 ワシらはそういう老朽化の激しい校舎に入学したわけだが、聞けばワシらの祖父の世代も世話になったらしいからその歴史はかなり古かった。老朽化するわけだ。この頃それもピークに達しており、校舎の裏手の山の上を切り開いて新校舎が建設中だった。ワシらはそこにいつ移れるか楽しみにしていたが、1学期が終わって夏休みを経て2学期に入るとあっさりと新校舎に移ることができた。旧校舎はわずか1学期間の経験だった。
 新校舎に移ってもかなり長い間旧校舎は解体することなくそのまま放置してあった。人がいない建物の荒廃は早いもので、みるみる廃墟と化していった。ワシらは学校の帰りにこの廃墟で肝試しをして遊んだ。
 ある日のこと、上の階の教室に一人で入れるやつがいるだろうか?というのが話題になって、勇ましきチャレンジャーが2人で挑戦したが、何でもない音に怯えて「うわぁぁぁぁ!なんか音がしたぁぁぁぁ!」と叫びながら降りて来て、その勢いに下で待っていたワシらまで驚いて「うわぁぁぁぁ!」と叫びながら慌てて校舎の外まで走り出たことがあった。
 子どものことだからわずかな音で驚いだけでそこから話に尾ひれがつき、いつのまにやら誰かが幽霊を見たということになってしまうのはよくある話。ワシらの中でもあの校舎の中には幽霊が出るという話が出来上がり、みんながそれを信じていた。
 そうやって肝試しを繰り返しているうちに誰かが教室の中で猫が死んでいるのを発見した。そしていつのまにかその教室には猫の呪いがあるという話になり、今度はそこに入れるかどうかを試し始めた。何人かがチャレンジして、猫の死骸を見て来たとみんなに報告した。それを聞いて「俺も見てくる」とチャレンジャーは続々と出て来た。そこでワシもどうしても見たくなってチャレンジすることにした。恐々とその教室に近づいて、入口からそっと覗いてみると教室の一番奥にぼろぼろの雑巾のような猫の死骸が転がっていた。その猫の目がちょうどワシのほうを見ていたのでなんとなく目があったような気がした。その瞬間にワシは慌てて逃げ帰った。
 次の日にワシは猫の死骸と目が合ったことをみんなに話すと、誰かが「猫の死骸と目があったら本当に呪われるとぞ」と言った。ワシはそれを聞いて以来、しばらくは恐ろしくて仕方がなかった。あれは目があったのではないと自分で思い込もうとしたが無駄だった。たまりかねてお袋や姉貴に事の顛末を説明し、「ねぇ、どうもないよねぇ?」と念押しして、「どうもないが。そんなの信じたらいけんよ」という返事を貰って少しほっとしたが、結構長いこと引き摺っていた。幼い感受性は恐怖も増幅するものらしい。

更新日:2010-12-08 22:49:53