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第7話 転校の理由

流香はハヤブサのアニマルズなんじゃないのか…。
そうだとしたら、全ての辻褄は合う。
流香の転校初日にハヤブサが姿を現したこと。
ハヤブサのことを話すと、理由をつけてその場を後にしたこと。
怪我をした箇所が同じであること。
こんなに揃っていれば、ほぼ間違いない。
流香はアニマルズの1人だ。
後は武と2人で流香に正体を明かせば、流香は肩身の狭い思いをしなくて良いだろう。
だが万が一のことだってある。
もし流香がアニマルズの1人じゃないことも考えて、ハヤブサに正体を明かすことにしよう。
「よし、山に行ってみよう」
充は下校途中で山を目指す。
おそらく彼女は山に現れる。
飛べない今、人通りのある所にいたら珍しがられてしまうからだ。
だが山には多分あいつも現れる。
狩人だ。
狩人がいたら、絶対に殺されてしまう。
「…落ち着け…。俺が先に見つければ良いんだ…!」
充は大急ぎで山に向かって走り出す。

夜、山は闇の中と化す。
暗くて周りがよく見えない。
だが、充は昨日わずかだがハヤブサの匂いを嗅いだ。
武ほどではないが、大まかに場所を特定することが可能だ。
「この能力持ってて良かったわ…」
充は呟くと、ハヤブサを捜し始めた。
歩くに連れて、段々匂いが強くなっていく。
近づいている証拠だ。
しばらく歩いていると、完全に近くにいることが分かってきた。
おそらく数メートル先だ。
充は草木などに隠れ、その先を見つめる。
やっぱりいた。
良く見ると、左の翼には包帯が巻かれている。
これで確定だ。
充はハヤブサの前に姿を現す。
ハヤブサは充に気づき、その場を立ち去ろうとする。
「待ってくれ!」
充の言葉にハヤブサは背中を向けたまま、足を止めた。
「俺もアニマルズの1人だ!」
ハヤブサはその言葉に充の方へと振り返る。
「アニ…マルズ…」
それはハヤブサから放った言葉だった。
もうこれで決まりだ。
「流香…、お前なんだろう?」
充の言葉にハヤブサはうつむく。
そしてハヤブサの姿から流香の姿へと変わっていった。

2人は丸太の上に座っていた。
「あの狩人、元いた場所から追いかけてきたのか…」
「うん…、今アラブ諸国の金持ちの間でハヤブサ狩りが流行っていて、ワシタカ類が何百万円で取引されているんだって…」
「それでお前を売ろうとしているのか…、だが日本ではハヤブサの狩猟許可は出されていないはずだぞ…?」
日本国内で狩猟許可が出ている鳥は29種でその中にハヤブサは含まれていない。
しかも売るのが目的だったらスポーツハンティングと見なされるだろう。
日本において、スポーツハンティングはタブーだ。
「訴えれば勝てるよな」
「でも、証拠がないから…」
流香はうつむく。
あるとすれば、流香の左腕の怪我だろう。
しかしそれを証拠に出せば、アニマルズであることがばれてしまう。
これから証拠を作るにしても、危険な行為だ。
「こうなったら、3人でこらしめてやろう…!」
「3人?」
充の言葉に流香は首を傾げる。
そういえばまだ言ってなかった。
「あ、言い忘れてた。実は武もアニマルズの1人なんだ」
「そうなんだ。だから仲が良いんだね!」
流香の表情が笑顔になる。
充はその笑顔に一瞬吸い込まれそうになった。
「どうしたの?」
「えっ!?いや、何でもない」
「…変なの」
流香が笑顔で言う。
「そんなことより、早く帰ろうぜ?もう夜遅いから家まで送るよ」
「じゃあお言葉に甘えちゃおうかな?」
「…では帰りますか」
2人は下山した。

2人並んで夜の道を歩いている。
「でも良かった〜」
「何が?」
「ここに転校してきて…。私ずっと1人だったんだ〜…」
「そうだったのか…」
充は最初から武がいてお互い相談にのったりしていたが、彼女はずっと1人だったことを聞いて、1人の世界を想像してみた。
相談する相手もいなければ、正体を明かすことも出来ない。
とてもストレスが溜まるだろう。
「あ、私の家あそこ」
流香が指差す。
そこはアパートだった。
「1人で住んでるのか?」
「うん、ここに来たばかりだし。小さい頃に小遣い貯金してて、そのお金で住んでるんだ。でも、いずれは尽きちゃうから、いつかはバイトしなくちゃと思ってる」
「そうか…。結構しっかりしてるんだな…」
充は呟く。
正直充は孤児院に住んでいるため、お金に困ったことが1度もない。
そう考えると、自分はまだ子供なんだなと感じた。
「じゃあ、俺帰るわ…」
充はそう言うと、孤児院に向けて歩き始める。
「うん、送ってくれてありがとう」
流香が手を振ってきた。
「…じゃあな」
充も手を振り返す。
少し照れながらも。
手を振った後、再び孤児院に向けて歩き始める。
後は武に今日の出来事を説明して、明日どうするかを考えるだけだ。

更新日:2010-11-13 14:51:52

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