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第5話 充の初恋

今日は武が係の仕事で早く出たため、充は1人で登校することになった。
「はぁ~、1人だけだと話し相手がいないから暇だな~…」
あくびをしながら充は呟く。
充は登校する時、必ず川の上に架かっている橋を通って学校に向かう。
全然何も変わらない、いつもの橋だ…と思っていたが今回は違った。
1人の少女が柵に手をかけて、川を見つめていた。
「ここ…都会だと思っていたけど、意外と田舎だな~…」
少女が川を見つめながら呟いている。
「(何だ?こいつ…)」
普段充は気にも留めないが、何故か今回は気に留めてしまった。
何故気に留めてしまうのかは、充本人にも分からない。
すると、少女が突然振り返り、充に気がついた。
「あ!そこの君!」
「…俺?」
充が自分を指差して尋ねる。
「そう、君君。今何時か分かる?私時計どこかに落としちゃって…」
「今?今は…」
充は腕時計を見つめる。
「8時25分だよ。…8時25分?」
充はもう1回腕時計を見つめる。
学校の登校時間は8時30分までだ。
「やばっ!遅刻だ!」
充は学校に向けて走り始める。
「時間教えてくれてありがとうね~!」
後ろから少女のお礼の言葉が聞こえたが、そのまま振り返らずに走り続けた。

「で、ギリギリセーフで学校に着いたと…」
理由を聞いて武は呟く。
充が学校に着いたのは29分。
つまりあと1分でも遅かったら遅刻という訳だ。
「ところで、その少女って誰なんだ?」
武が尋ねる。
「俺も分からない。でも意外と田舎って言ってたから、多分引っ越してきたんだろう…」
「ふ~ん…。で、その子好きになったの?」
武の言葉に充の顔は一瞬赤くなった。
「ば…バカ言え!そんなわけないだろ!」
「だって、充が気に留めるってのも珍しいからさ~。よっぽど可愛かったんだろうな~」
「うるさいな…」
充は机の上に肘を立て始めた。
「なあ、その子のことオイラにも教えてよ…。物凄く気になるから…」
「えっ?…う~ん…、ショートカットで、少し茶髪がかかってるかな…」
すると、チャイムが鳴り始めた。
「あ、チャイム鳴ったぞ…。早く自分の席に着けよ」
「分かったよ…。10分休みに続き聞かせてくれよ?」
武はそう言うと、自分の席に戻る。
「あいつ…、あんなキャラだったかな…」
充が呟き終わるのとほぼ同時に先生が扉を開けて入ってきた。
学級長が号令を始め、生徒達は再び座る。
「突然だが、転校生を紹介する。入ってきなさい」
先生の言葉に1人の少女が教室に入ってきた。
「水野流香です。この町に来たばかりなので、分からないことが多いですが、宜しくお願いします」
「…あっ!」
そこにいたのはさっき川で会った少女だった。
その声に少女―流香は充に気づく。
「あ、君は…」
「何だ、知り合いか?だったら丁度いいな。充の隣の席に座りなさい」
先生はそう言うと、充の席の隣を指差した。
流香は先生の言葉通り、充の隣の席に座る。
「宜しくね」
「あ、ああ…」
充は思わず視線をそらしてしまう。
こんなに動揺したのは初めてだと充は思う。
「では、朝のホームルームはこれで終了だ。次の授業の準備をしなさい」
先生の言葉に室内はざわめき始める。
すると武が小走りで向かってきた。
「充!この子か?例の子は…」
「例の子は…て、お前な…」
「君達は友達なの?」
突然流香が割って入ってきた。
「ああ、オイラは充の友人の阿藤武。宜しく!」
「うん、宜しく」
流香は視線を武から充に移した。
「君、充って言うんだ~」
「ああ、尾崎充だ」
「改めて宜しくね」
流香はそう言うと、充に手を差し伸べてきた。
「あ…、ああ…」
充は少し照れながらも流香と握手を交わす。
「あ、そうだ。充、ちょっとこっちに来てくれ」
「何だよ」
武と充は教室を後にした。
そして廊下で話し合う。
「良かったじゃないか!」
「何が?」
「何がって…、念願の彼女に会えたってことだよ」
「あのな…、まだ知り合って1時間も経ってないんだぞ…。何が念願の彼女だよ…」
武の言葉に充は呆れ口調で言い返す。
「でも、絶対お前恋してるだろ~。オイラも色々手伝うからさ!彼女ゲットしなよ~!」
「黙れ。これ以上言うと…、容赦しないぞ…?」
充はそう言い、教室に戻る。
「分かった、オイラが悪かったよ~。でもそんなに怒ることないだろ~?」
「早く席に着け。そろそろチャイムなるぞ…」
すると充の言う通り、チャイムが鳴り始めた。
またいつも通り…かどうかは分からないけど、再び学校の生活が始まる。

更新日:2010-11-13 14:49:16

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