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第1話 アニマルズ

高校の春。
充は高校生になった。
彼は新しい教室に入ると、自分の席に座る。
そして局長の約束がふと頭の中で思い出した。
今のところは約束を守ってきたつもりだ。
動物(彼は狼に変身することが出来る)に変身することはあるけど、それは人目につかないところでやっている。
変身しない方が良いってことも分かっているが、何故か1回変身しないと体がムズムズしていく。
禁断症状という奴だ。
だが、ただ変身しているわけではない。
様々な良い事をした。
引ったくり犯を威嚇で足止めしたこともあるし、空き巣犯を襲ったこともある。
たまに警察に見つかって追われる身となるが、こっちの方が足が速いから捕まることはない。
何しろ、路地裏に入って人間に戻ればいい。
だが、ここがもしアメリカとかだったら自分はまず射殺されるだろう。
その時は、簡単に銃は手に入らない日本で良かったと思っている。
「お〜い、充〜!」
「ん?」
後ろからの声に充は振り返る。
武だ。
「良かった〜。お前とクラス一緒で〜」
武はホッと胸をなでおろす。
彼の名前は阿藤武。
熊に変身することが出来るアニマルズの1人だ。
小さい頃からずっといる、自分の正体を打ち明けることができる親友だ。
「…それにしても…、お前また少し太ったな…。いい加減食べるの止めろよ…」
充はあきれた口調でいう。
武はかなりの食いしん坊だ。
小学生の頃は嫌いだったおかずを代わりに食べてくれたことがあった。
「良いじゃないか〜!確かに少し太ったけど、デブって言われるほど太ってないんだし…!」
「ま、お前が良いんなら良いんだけど…。それより、そろそろ先生来るぞ?早めに座っとけ」
「へいへい、分かりましたよっと」
そう言って武は自分の席に座る。
数秒後、先生が来た。
どうやら男の先生だ。
「みんな、入学おめでとう。だが入学できたからといって浮かれてはならん。この学校の生徒として、頑張ることだ。飲酒、喫煙、深夜徘徊は絶対に禁止だからな。もしこういうことをしでかした生徒は即刻停学処分だ…」
その後も先生の話が長く続いた。
「(長い…、校長先生のスピーチじゃないんだから…)」
「じゃあ、話もこれくらいにして体育館に移動だ。椅子を持って出席番号順に並びなさい」
先生の言葉に生徒達が動き始める。
そして並んだ状態で体育館に向かった。

入学式が終って、生徒達は教室に戻っていた。
「…校長先生の話長かったな〜」
武が言う。
「まあ、どこの学校も同じ事だろう。噂によっちゃ、校長先生専用のスピーチの本もあるらしいからな…」
「えっ!?それ本当か!?」
「噂って今言っただろ…」
すると、教室の扉が開き、先生が入ってきた。
生徒達は自分の席に座り始める。
「じゃあ今日はこれまでだ。忘れ物のないように早く帰りなさい。では学級長、挨拶」
「起立!さようなら!」
学級長の言葉に全員が立つ。
そして頭を下げた。
「は〜、やっと終ったな〜!」
武が伸びをする。
「まだ昼前だぞ、これから大丈夫なのか?」
「大丈夫大丈夫〜。4時間後の後は弁当だからな。オイラは食べ物があればそれでいい!」
「……じゃあ帰るぞ…」
充はスタスタと帰り始める。
「おい!待ってくれよ〜!」
それを追いかけるように武が走り出す。
「一緒に帰ろうぜ〜」
「帰るって…、どうせ同じ孤児院なんだから…、帰ってからでも普通に話せるだろ…」
「良いじゃないか〜!それにしても今日の昼飯何かな〜?おばさんの作るハンバーグは格別なんだよな〜」
「はいはい…」
すると、どこからか女性の叫び声が聞こえた。
「…聞こえたか?」
「ああ、あっちだ!」
武は走り出し、充はその後を追う。
熊は聴覚が優れているため、熊の遺伝子を持っている武は声だけですぐ相手の居場所を特定出来る。
「この角を曲がったらすぐだ…!」
「分かった!後は俺に任せろ!」
充は走りながら誰もいないことを確認し、狼に変身する。
そして角を曲がる。
「誰かー!」
女の人が複数の男に襲われている。
「グワオゥ!」
充は雄叫びを上げる。
「うわっ!逃げるぞ!」
男達は充の姿を見て逃げていく。
その後を充は雄叫びを上げながら追いかける。
そして女の人から離れたことを確認すると、路地裏に入り、人間に戻る。
「ハァ…ハァ…やっと追いついた〜!」
武が走ってきた。
「良いじゃないか、少しダイエットになって…」
「でもこんなに疲れるのに0,01ぐらいしか減ってないんだよ!ダイエットなんてゴメンだ!」
「はいはい…、じゃあそろそろ帰るぞ」
「よし…昼飯だー!」
武は走っていった。
「さっき疲れたとか言っといて…」
充はゆっくり歩き始めた。

更新日:2010-11-13 14:47:28

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