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 その無音の空間を最初に断ち切ったのは眞衣さん。「あ…」という申し訳なさそうな声をあげては俺のほうを見てくる。
「なんか…、ごめんなさい。あの子達最初は家族が増えるって楽しそうだったんだけど…」
「俺が来て絶望、…ですよね」
遠いものを見るような感じで俺は答えてしまった。

「そんな事ないわよっ!ただ、いきなりの事で驚いているだけなの。あの子達、家に男の人がいるっていう環境に慣れていないだけで…」
またも眞衣さんは少し焦った感じでフォローをしてくる。それよりも俺はある言葉の方が気になった。
"男の人がいるという環境に慣れていない"その言葉に俺はある事を思い浮かべる。それは父親の存在だ。
その事が気になった俺は父親の事について聞こうと思った、だがそれは聞いていい事じゃないと思う。
子供がいるのに父親がいない、この環境で見つかる答えは自然と絞られるのだから…。

 ふと眞衣さんを見ると、なんだか遠いものを見るような目をしていた。やっぱり、父親の事を気にしているのだろうか。
「知っているかもしれないけど、この家にはもう母親も父親もいないの。本当はつい最近までお母さんがいたんだけどあの人病気で他界しちゃってね。お父さんは私が4歳のとき、多雪までが生まれていたときに家を出て行っちゃったの。それで私のお母さんと親しかった零音君のお父さんの元に引き取られることになったんだけど、貴方のお父さんも…アレだったから…、結果的に今に至るわけなのね」
少しだけ悲しげな表情をしては、眞衣さんは自分から家の事情について語ってくれた。この人もこの家族も大変な思いをしていたんだ。だから虎子さんはあんなにも男に厳しく、多雪さんは無関心なんだ。

「ごめんなさいねっ、こんな話しちゃって。貴方もお父さんの事でまだ辛いと思うのに…」
悲しげな表情を振り払うかのように、眞衣さんは笑って再び俺に言う。
「いえ、俺は別に親父の事はそんなに引きずってませんから…」
 なんだか気まずい空気になる、その後3秒くらい沈黙が続く。
「お、お茶でも入れようか!」
眞衣さんはそんな空気を打ち消すかのように立ち上がっては台所へ向かった。
こういう場合手伝ったほうがいいよな…。そう思った俺は立ち上がって同じく台所へ向かった。
「手伝いますよ、俺も」

更新日:2010-06-28 21:28:51

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