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第二章

謎の超能力集団との突然の出会いと衝撃の発表から二週間後の今、俺は自身の能力を駆使し、仲間と助け合い、迫り来る敵との激戦を繰り広げていなかった。

「ひ……暇だぁ~」

あの人生を変える放課後が訪れてからはや二週間。高校生初の定期テストも体験した。しかし、俺はフォースチルドレンとして何も体験していないのだ。
俺に要求されたのは、学校のある日は毎日、放課後に連中が所有する部室にて過ごすことだけだった。

「少しは違うことを声に出したらどうだ。毎日ここに来てはそれしか言ってないじゃないか」

俺と同じく部室にいた堀井がため息まじりに言った。その態度に、俺のたまりにたまった退屈への憤りが爆発した。

だって、だってだぜ? 俺は毎日部室に来るように言いつけられて、言われたとおり来てみても、そこには退屈な時間だけが流れてんだぞ? 何にもしてねえ。"ゲーム"に関する話も聞かないし、堀井だって、毎日そうやって提出課題に勤しんでるじゃねえか。何かすることはないのか、俺たちには!

そう言うと堀井は面倒くさそうにしながらも言葉を返した。

「フォースチルドレンは日常の平和を保障されてるんだよ。俺たちがこの部室にいる理由は、能力に他の能力者の近くに居ることによって刺激され、強化される特性があるからだ。ましてやおまえは、まだ能力が使える状態でさえない、未開発の状態なんだからな。何なら、おまえも課題をやればいいじゃないか」

とてもじゃないが、やる気にならん。

「それに、葵と神宮はどうしたんだよ。あいつらだってここに居なきゃいけないんだろう?どこ行ってんだよ」

部室に来るといつも堀井が課題に取り組み、二日に一度の割合でコンピュータの前に葛城彩斗が座っている。井原先生は忙しく、そう頻繁に来ることはないそうだが、神宮と葵はいつ来ても姿がない。何故二人は自由なのか?

「神宮が葵に付き合わされてるんだ。一体どこをほっつき歩いてるか知らんが。井原先生にバレたらどうするつもりなんだか」

あの娘、そう言えばあの日も俺を無理矢理連れ出したな……なんだか仕方ないような気がしてきた。むしろ、神宮、おまえも大変だなという気持ちが湧いてきた。

「それよりおまえ、フォースチルドレンについてよく理解してるか?」

「してるか? 愚問だな、できん」

「なんで偉そうなんだよ。暇ならそういうことを勉強しろ」

「だって井原先生はいないぜ? 誰に聞けばわかりやすく教えてくれんだよ」

「や、やれやれ、自分で考えるということをしないのかおまえは……何なら『MAGI』にでも訊いてみたらいいじゃないか」

「MAGI……?」

なんだ、それは。

「全く呆れた、もう忘れられてるぞ、葛城」

「仕方ありませんよ。僕も彼女らをMAGIと呼ぶことはほとんどありませんし」

会話が思わぬ方向にパスされた。受け取ったのはデスクに座ってお茶を啜っていた葛城だ。

「MAGIはこの学園の地下に設置され、校内のコンピュータからアクセスできるスーパーコンピュータだ。覚えておけ、おまえもかなりお世話になるはずだ」

ああ、確か三つのAIと、それを擬人化したホログラムが出てくる……あまりにも非現実的だったから、夢と同じように記憶に残らなかった。葛城とも、思えば話したことがない。

「黒野さん、もしよかったらどうぞ、彼女らを使ってやってください」

「いいのか、葛城君」

「僕のことは呼び捨てでいいですよ。さ、みんな出てきて」

葛城が合図すると低い起動音が鳴り、部室にあたかも日曜の朝からやっている子供向けアニメに登場する少女たちのような恰好をした、三人のAIが現れた。二週間前にも一度見たが、やっぱり非現実の臭いがする……。
ホログラムの表示が安定すると、三人は挨拶を始めた。

「こんにちは、お久しぶりです。カスパーです」
礼儀正しくお辞儀をした、カスパー。

「どうせ名前も忘れてるんでしょ! メルキオール、長いからメルでいいよ」
どことなく葵に似た雰囲気をもつ、メルキオール。

「……バルタザール」
口数の少ない、バルタザール。

……機械のくせに、どうしてこうも個性に溢れてるんだこいつら。

更新日:2010-04-07 01:25:37

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