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第一章

目の前が真っ暗だ。それも当然。目蓋が目に覆いかぶさっていた。眠っていたのか?

目を薄く開いて周りを見る。どうやら俺の家ではないらしい……学校だ。学校の、教室。俺は教室で寝ていたようだ。でも何故? 授業は終わって今は放課後のはずだ。まだ部活にも所属していない俺は帰宅しようとしていたはずだが…?

 「……これで部員は4人。これからは少し楽になりそうだね」

 声が聞こえる。誰かがいるらしい。聞き覚えのない声だ。
さらに少し目を開けて、視界を広げる。

「………」

 ここはクラスの教室じゃないな。部活とかのための部屋だ。パソコンが置いてあるがパソコン部の部室じゃないな。一台しか見当たらない。よく見ればパソコンデスクに誰か座って慣れた手つきでパソコンを操作している。向こう側を向いてキーボードをたたいているおかげで顔は見えないが、制服から男子であることはわかる。
 そいつに声をかけてもよかったのだがわき目もふらず(ここから顔は見えないが多分わき目はふってない)キーボードを叩いていたので少し気が引けた。
 他にだれかいないかと頭を傾ける。

 「…………」

 セーラー服の女子生徒がいた。近くに。することがないのだろうパソコンデスクの男の手つきを見てぼーっとしている。よし、何故俺がここにいるのか説明してもらおう。
声が出ない。というか、出すだけの気力がないみたいだ。早く目を覚ませ、俺。
起動したばかりの体はまだ動くつもりはないらしいな。
女子生徒の表情が変わった。視線はこっちに向けられている。

「かんくーん! 起きたみたいだよー!」

元気のいい声が耳を突き刺す。おかげでようやく頭が回りだした。そのかんくんとやらが誰かは知らんが。よし、体を起こそう。よっこら

「やあ! 起きたみたいだね!」

「うおうっ」

あまりに唐突すぎる視界への出現に間抜けな声を出しちまった。こいつがかんくんその人だな。まず、ここはどこで何故俺がここにいるのか説明してもらおう。

「ここは僕らの部室だよ。君に話があって連れてきたんだ」

まだ質問してないのに答えが返ってきた。読心術でも習得しているのかこいつは。
 動くことを拒否しようとする体にムチ打って起き上がる。

「僕は神宮(かんのみや)一郎(いちろう)。一応ここの責任者だよ」

頼んでもいないのに自己紹介を始めたこいつは漫画のように整っていて朗らかな顔をしている。華奢な体格からすると文化系の人間だろう、とするとここは文化部か? それ以外は普通の高校生に相応しいかっこうをしている。俺と同じ一年生のようだし敬語を使う必要はないだろう。

 「えーっと……神宮だっけ? 何故俺がこんなとこで寝ていたのか説明してもらえないか」

 質問を予想していたようにそいつは苦笑いをしながら

 「眠らせたんだよ」

 「………え?」

 俺が開いた口を塞がないでいるとアリバイを崩されそうになった犯人のようにうろたえて
 「えと、そのね、逃げられちゃうかと思ったんだよね。君にさ」

更新日:2010-08-11 15:07:17

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