• 3 / 44 ページ

どうして小説を書くの?

 
 起立。
 気を付け。
 霊。
 着席。

 皆さん、こんばんは。元気にしていましたか?
 「いっそ殺してくれ……」
 と言いながら花粉と戯れて過ごした仙花です。魂の半分は彼(あ)の世です。
 では賽ノ河原から授業をお送りしますね。

 早速ですが今日のテーマを発表します。
 と言っても章タイトルに付いちゃっていますね。
 では皆さんご一緒に、さんっはいっ!

 「「「〝どうして海は青いの先生?/ミカちゃん、それはね……〟」」」

 はい、では小一時間みっちり論じていきましょう。

 私が初めて小説を書いたのはたぶん、小学校6年生の時でした。
 「早っ!」と思われた方もいるでしょう?
 ところがDOKKOI(どっこい)、これは序章ていどで途切れてしまいました。
 当時、単身赴任を始めた父に月一で自作の新聞を送ろうとしたんです。
 推理小説(シャーロック・ホームズやアルセーヌ・ルパン)が好きだった私は、近況報告などの片隅にちょこっと連載を試みました。
 タイトルは憶えていませんが、確か密室殺人を扱おうとしたような記憶が霧の奥に揺れています。
 新聞は三ヶ月坊主で終わりました。つまり、ルーツというほどの執筆経験値に達していません。

 時は流れて太平洋戦争終結。
 焼け野原を彷徨う私は、ふとした切っ掛けで『小説を書く』ということに再会します。
 (※一部フィクションが入りました。ヒント:『』)

 こほんっ。
 …皆さんは何故、小説を書き始めたのですか?
 「本が好きで、自分でも創ってみたいと思ったから」
 「プロの小説家になりたいと思ったから」
 という方ももちろん沢山いることでしょう。

 私の最初の動機は「笑顔にさせたい」でした。

 それはなんてことのないちっぽけな世界でした。
 でも、その時の私にとっては大切な、守っていきたい場所でした。
 その場所でささくれ立つ人々の心を見ているうちに、自分に何か出来ないだろうかと悩んだ私は「思わず笑ってしまうような物語を創って発表してみよう」と、自分でも驚くような勇気を振り絞ります。
 そして生まれたのは、掌編とも言えないような短い、でも人生で初めて完結した物語。
 心拍数100/秒 を数えながら私はこっそりと発表してみました。

 翌日、私の小説に「楽しんだ」と感想が残されていました。
 たった三人、でも三人の人間。
 三人の人生のひと時に、私の物語は小さな元気を与えることができたのです。
 そのことに予想もしなかった感動を覚えながら、同時に私はあることに気付きます。

 〝一番、元気を貰ったのは、私自身だ〟

 その日、やっと知りました。
 自分が苦しみを抱えているのなら、誰かの苦しみを和らげればいいんだ。
 自分が孤独から救われたかったら、誰かを孤独から救えばいいんだ。
 自分が笑顔になりたかったら、誰かを笑顔にすればいいんだ。
 それから私は小説を紡ぎ始めます。
 水中で空気を求めるように。
 洞窟で出口を求めるように。
 「あなたは生きていいんだよ」と、聴こえてくる声を途切れさせないために。

 私は小説に生かされています。
 読者様を想い浮かべるたびに、自分が存在しているということを確かめています。
 いつか世界中の人々に「今日一日を頑張る元気」を与えたいです。
 それが叶ったとき、私は「生きてきてよかった」と世界中の誰よりも強く想える気がするんです。
 これが、私が小説を書く理由のひとつ、です。


 -海が青いのはね、お空に自分の姿を見せてあげているんだよ。-


                              仙花 
 

更新日:2010-06-16 23:35:30

  • Twitter
  • LINE
  • Facebook