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8章 秘密の意味

 数歩下がったヴェルセスが、深呼吸して額の血を拭った。そしてすぐに鎖を振り回す。一直線に飛び出してきたレオンは、槍で鎖を弾こうとし、そのまま槍と自分を横へ飛ばされてしまった。
「俺と……皆の恨みだ!」
鎖の先に付いた穀物が、高く振り上がる。
「ヴェルセス、光術を使わないお前に俺が負けるとでも思ったか」
言うが早く、レオンは転がって穀物の落下地点から遠のいた。穀物が床に減り込み、凹みが生まれる。
 しかし、あまりにも長時間二人とも戦い通しであるために、お互い動きが鈍り、攻撃の威力も半減していた。ここからは両者とも、過酷な持久戦を覚悟しているのである。それでもレオンは、何故ヴェルセスが敵に立っているのか理解できず戦いへの疑問も増してきたのだった。
「いい加減止めないか」
「赦せねぇ、あんたを赦せねぇ」
穀物が、減り込んだ床からぐいっと持ち上げられた。
「アンスール、もういい。止めろ」
穏やかだが棘のある声が聞こえてきたのはその時で、二人は同時に振り返った。
「大天使フェオ」
ヴェルセスがフェオを見据えて言う。
「だがこれは、俺の仕事じゃなかったのか」
「そうだ。だがアンスール、お互いまだ若いし自分の体は犠牲にするものでもない。そこまで激戦にあると、あまりにも心配だ」
「あんたの心配には及ばない」
むっとしたのか、ヴェルセスが言い返す。
「俺は良くないんだな。お前が傷物になると困る」
フェオの態度は変わらず、威厳に満ちていた。
「だから、これ以上は止めろと言ったんだ。それと……そっちが水晶騎士(クオーツナイト)のレオンか。初めまして、俺はこの飛行船の指揮官、位階〝天使(アークエンジェル)〟の大天使フェオだ」
彼は視線をレオンへと向けた。
「だがアンスールを下がらせたからといって、お前を逃がしてやるわけでもない。ここで死んでもらうからそのつもりで」

更新日:2008-12-28 21:20:53

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