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3章 西の禍

 四人が出発したのはその翌日、まだ人々や兵士達があたふたと襲撃事件の後始末に追われている時だった。レオンはどさくさに紛れて、前のよりも大きくて新しい馬車を頂戴し、グレンも彼の荷物一式と共に乗り込んだ。
 向かう先はリライデルという、フォアルスタの西にある聖教の町であった。リーデンタニアと同じく聖なる山へ巡礼に行く聖職者のために発展した町であるが、リーデンタニアがカストの町であるのに対して、リライデルはエルフの町である。
 旅路はさほど長くなく賑やかで、ウェンディは常に銃の手入れをしているグレンにも段々と慣れてきた。彼は真面目で誠実なカストだ。しかしそれ以前に優男であり、騎士という堅苦しい枠にとらわれているとは言えず、レオンと冗談を言い合っているときなんかはとても無邪気にさえ見える。
 しかしアリスは、あまりグレンと面識がなかったのか、ウェンディと同じくらい彼に対しては慎重だった。
「グレン様は元々、私の父と同じ時に仕事をされていたのです。私はそのときはまだ、彼とはあまりお会いすることもありませんでしたから。私が騎士になってからは、もう他の騎士の皆様方はあちこちへ散ってしまっていたし……」
そのように弱気になって語ってくれるのも、ウェンディが見た限りではアリスにも珍しい。
 グレンは特にウェンディについて、何も言わなかった。杖のこともオニキスのことも訊ねず、どうして同行しているのかとさえ口にしなかった。それがウェンディには気楽なことであるのだが、何か腑に落ちないといえば嘘ではない。

 数日して、明け方にリライデルに到着すると、レオンはグレンを連れてすぐに町へ入っていった。
「私達はもう少ししたら市場に行って、昼食の食料を買いだしましょうか」
とアリスに言われ、ウェンディはそれまで不安げに落ち着かなく歩き回っていた足を止めて馬車の影に座り込んだ。
 昼ごろになってアリスとウェンディが買い物を抱えて町の郊外にある馬車へと戻ってくると、そこには異様で巨大なものがずしりと陣取っていた。
「こ、これは……」
ウェンディが冷や汗をかき、なにやら整備をしているレオンに尋ねる。
「飛行船、ですか?」
「見てのとおり」
確かにボロボロで、決して頑丈であるとは言い難い。

更新日:2008-12-12 23:04:38

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