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TRY!TRY!TRY!

3月。

獣医になる決意を固め、入試を終えた野梨子は4月から

北海道で寮生活に入る。

魅録は東北での生活が待っており、清四郎は渡英の準備。

学園に残る3人もそれぞれに忙しい春を迎えていた。




 「あなた・・・あの子、本当に大丈夫ですかしら?

  清四郎ちゃんと一緒に渡英してくれたほうがよっぽど

  安心でしたのに。。。」


 「ふ・・・ん。ま、野梨子の人生だから仕方がない・・・にしても、

  さびしくなるね。あっちにも仕事場作ってしまおうかなぁ」



初めて親元を離れる娘を思い、白鹿夫妻は同時にため息をつく。



その娘、野梨子は・・・そんなまわりの心配をよそに、

新たな野望に燃えていた。


 (ふふ・・・きっとみんな驚きますわね。私が免許を取ったって言ったら・・・

  あらこんな時間、もう出なきゃ!えっと今日は学科だけですわね。。。)




清四郎は玄関のドアを開けた。


風は冷たいけれど、春めいた香りがかすかに感じられる。


まだまだ固く閉じている桜のつぼみを確認して、駅までの道を急いだ。


(今月末ぐらいかな、今年の花見は・・・みんなの予定が合うといいが)



 「・・・清四郎!せい、し・・・ろう、はぁ。待って・・・」



聞き慣れた声に振り返ると、野梨子が息を切らしてかけてくる。


 (そうそう、昔からいつもこんな風に後をついて来たっけ・・・)


そんなことを思い出しながら、目の前の野梨子に焦点を合わせた。



 「もぉ・・・清四郎ったら・・・ずっと呼んでいましたのに・・・はあ」

 「すみませんでしたね。ちょっとボーっとしてたんですよ・・・あったかくてね」


やっと息が整ってきた野梨子の顔はほんのり赤く、いつもより健康そうに見える。



「どうしたんですか?そんなに急いで」

「え、っとあの出かけるとこなんですけど・・・この間言ってた本が見つかって・・・

 玄関から出るところがちょうど見えたので・・・」


バサバサ・・・・・・

目的の本と一緒にバッグの中からこぼれ出た本。

「安全運転の知識」

清四郎はクギヅケになった。


 (WHAT???) 

更新日:2010-06-14 11:25:14

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