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朝は早くから手術の準備で忙しかった。
かなえは絵里子より一足先に手術室へと入って行った。

家族がやってきた。
一郎と悟志ろ昨夜アメリカから帰って来た未亜であった。
気性の激しい未亜は、痩せて小さくなった母を見て、愕然としたのを隠せなかった。
近寄ると「お母さん」と呼んで手を握りしめた。

「頑張るんだぞ、恵理子」と一郎が言った。
「大丈夫だよ、お母さん」と悟志が言った。
「気楽にね、麻酔から覚めたら全部済んでいるのかだら」と未亜が言った。

絵里子はかなえにもらった折り鶴を未亜に渡した。
「私がここに帰ってくるまで、持っていてね」
皆が手を振るのを見ながら、絵里子は手術室へと入って行った。

その日は台風でも来ているのだろうか、大風が吹き荒れて木々を揺らし、小枝をちぎり放した。

一郎は窓から上体を乗り出して、ビルの間を吹きまわる風の唸りに耳を傾けた。
うーうーという音がまるで絵里子が手術台の上で必死に死と戦っているようでいたたまれない。

手術は予定外に長引いていた。
“大丈夫だろうか?”ふっと不安がよぎった。

未亜が横に立って、「お父さん大丈夫よ。この鶴がお母さんを守ってくれるわ」
と折り鶴を一郎に差し出した。

更新日:2010-03-03 10:37:20

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