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第3話

 人類防衛連合。
 それは、人間の脅威であるソーサラーに対抗するために、国家の枠組みを超えて結成された軍事組織である。
 なぜ魔術を使えるのか、そもそもなぜ魔術が存在しているのかさえも、現代科学をもってしてでも不明となっている、人間の範疇を超えた存在であるソーサラー。彼らに対抗し得る唯一の武器として、あらゆる科学力を駆使して立ち向かっている。
 数か月前まで、人間とソーサラーの大規模な戦争があった。『ソーサラー大戦』と呼ばれるこの戦いにおいて、人類防衛連合は結成され、ソーサラー軍に立ち向かったものの、人類防衛連合は本拠地を落とされてしまい、劣勢の状態となってしまった。しかし、一歩も退く事なく奮戦した事によってソーサラー軍の消耗も大きく、現在は大規模な戦いはなく、小競り合い程度の戦いが起きている程度になっている。
 だが、大戦そのものが終わった訳ではない。人類防衛連合は『来たるべき時』のために戦力を蓄えつつ、にらみ合いを続けている。つまり現状は、大きな事が起きればすぐに大戦が再開される、一触即発の状態でもあるのだ。
 そんな人類防衛連合には、『ランドグリーズ』という名の部隊がある。『盾を壊す者』という意味の名を持つ女神ワルキューレの名を冠するこの部隊は、人類防衛連合の中でも優秀な人材が集められた精鋭部隊である。
 そんなランドグリーズは、『ある任務』のために桜町付近で活動を行っていた。

 桜町郊外の森の中。
 ここには複数の大きなテントが張られており、ランドグリーズの簡易拠点となっている。夜間ではあるが、現在でも警戒のため、見張りの兵士達がテントの周囲を行き来している。彼らが持っているライフルは、通常のライフルと比べて太い銃身を持っており、それにより重そうな印象を与える。
 そんな薄暗いテントの中で、1人机の前で腰を下ろし、書類に目を通している男がいた。
 他の兵士達と同じく、茶色の戦闘服を身に着けている、青い髪を持つ若い男。その瞳には、強い決意を宿したような強さを感じさせる。そしてその傍らには、外の兵士達が持っていたものと同じ太い銃身のライフルが、スタンドのようなものに立てかけられた状態で置かれていた。
 彼の名は、トドロキ・コウタ。階級は少佐で、精鋭部隊ランドグリーズを率いる部隊長である。
 そして彼の側にはもう1人、席に座りながら太い銃身のライフルを布で丁寧に磨いている黒髪の男がいる。彼はライフルを磨き終えると、おもむろに席を立ち、ライフルをあちこちに構えてみる。その姿はまるで、おもちゃを手にとって喜ぶ子供のようだ。
「いやー、マジ早くこのレールガンを敵に撃ってみたいぜ……」
 男は笑みを浮かべながら、そんな事をつぶやいた。
「何やってるんだ、ヤシロギ。銃はおもちゃじゃないんだぞ。」
「わかってますよ、隊長」
 トドロキは書類から目を離さないまま、男に注意する。ヤシロギと呼ばれた男は、上官に対してとは思えない軽い口調で答えを返した。
 彼の名は、ヤシロギ・ミナト。階級は大尉で、こう見えてもトドロキの補佐を務める副隊長格である。
「いつソーサラーと遭遇してもおかしくない現状である事くらい、わかっているだろ。そんな時になって、壊しでもしたら取り返しのつかない事になるぞ」
「何、イメージトレーニングって奴ですよ」
 ヤシロギに言葉を続けても、ヤシロギは軽い口調を保ったまま答える。
 ヤシロギは、最近になって配属された兵士だ。精鋭部隊に配属されるだけの実力は相応にあるのだが、まだ実戦を経験していないためか、それとも21歳の若さ故か、どこか兵士として抜けた所がある。
 トドロキはそこが心配だった。実際の戦いというものは、まさに地獄という言葉がぴったりなほど過酷なものである事を、トドロキは知っている。彼はランドグリーズの隊長として、ソーサラー大戦でも多くの戦いを生き抜いてきたのだ。トドロキはふう、とため息をつく。
 そんな時、テントの中に誰かが足早に入ってきた。
「隊長!」
 入ってきたのは、同じ部隊の兵士だった。その声を聞いたトドロキは、読んでいた書類を机に置き、兵士に顔を向けた。
「どうした?」
「偵察に向かっていた友軍部隊の内1つから、映像が転送されてきたのですが……」
「映像?」
 その言葉を聞いたトドロキは席を立った。
 全ての兵士は、最先端のコンピューター技術を使用した歩兵戦闘システム『ランドウォーリアシステム』を装備しており、その通信装置を使用する事によって携行火器の照準器に装備されているビデオカメラで撮影した映像を司令部などに送信する事ができる。こんな時に、何か見つかったのだろうか。
 ――まさか、『あれ』が……?
 そう思った時、兵士は持っていたノートパソコンを開き、操作し始める。

更新日:2010-06-25 21:36:14

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