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小説

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ギャップ萌え

花火と並ぶ夏休みの一大イベント。それが夏祭り。

神社の前の通りには色とりどりの屋台が軒を連ね
ソースや揚げ物の匂いが夕闇に紛れて漂っている。

それだけで毎年ワクワクした気持ちになるものだけれど
今年はさらに人生初の彼女なんてものができたりして
その上彼女が浴衣を着てくるなんて言うものだから
もうなんだか漏れそうな子供みたいにソワソワしているわけで。

「おーい!」
声に反応して振り向くと狐のお面を被った浴衣姿の女が
風車をぶん回しながら全力疾走でこちらに駆けてくる。
下駄がありえないビートを刻んでいる。
狐のお面と風車はかなりの年代物らしく塗装がはげかかっていて
神社という場所も相まってか、かなり禍々しい雰囲気だ。
実際、僕の隣にいた男の子がびくん!と小さく身体を震わせて
涙をためながら走り去って行った。

「待たせた」
狐面の女がややハスキーな声で僕に言った。
「遅い。ところで何で狐のお面なんかしてんの?」
「母の言いつけでこの面を決して外してはならぬと。
十数年被りっぱなしだ」
「スケバン刑事II? いつ顔洗うの?」
「お気に召さなかったか? ギャップ萌えを狙ったのだが」
「俺は何フェチ? 狐面に浴衣は裸にエプロンと同じノリなのか?
あ、裸エプロンは別にギャップ萌えでもないし!」
「細かいことはいいとして。ドネルケバブを食べに行こう。羊肉の」
「祭りの屋台で羊はないよ! 本格トルコ料理店じゃないんだから。
お店の人が“チキンorビーフ? カラクチ? アマクチ?”ってきいてくるだろ?」
「むう。ケバブは羊以外認めんぞ!」
「知らねーよ!」

軽口をたたきあいながら、屋台が並ぶ通りを歩く。
思った以上の混雑でなかなか自由に前に進むことができない。
そんな軽いおしくらまんじゅう状態の中で彼女は大きなおしりの
おばさんに突き飛ばされて体勢を崩した。

その瞬間、お面のひもがスルリとほどけて彼女の素顔が露わになった。
唇には夜目にも鮮やかな朱色の口紅が引かれていた。

更新日:2010-02-17 16:24:06