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小説

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少女とお供え物

夏の夕空を黒雲が覆い、空から雨粒が数滴落ちてきたかと思うとやがて激しい夕立となった。
帰宅途中の僕は鞄を傘代わりにして目についた屋根つきのバス停に駆け込む。

バス停には先客がいた。
白地の浴衣に薄紅色の帯を締めた小学生くらいの少女。
誰かのお古なのか、浴衣は少し丈が短い。

少女はベンチにちょこんと腰掛けてキュウリをぽりぽりと囓っている。
キュウリには短く折った割り箸が四本刺さっていて、それは馬に見立てたお盆の……
「おいおい、それはお供え物だから食べちゃ駄目だよ!」
「おそなえものは、食べてもいいものなのです」
「よくないよ! 一体どこの子だ?」
「この先のしんごうをを左にまがって三こめのところに住んでいます」
「お父さんとお母さんが心配してるよ。早く家に帰りな」
「あなたにはかんけいのないことです」少女は再びキュウリにかじりつく。
「……。とにかくお供え物を食べるのはやめようよ。ほら。これあげるから」
僕は夕食後のデザートに食べようと思っていたポッキーを差し出した。
少女はポッキーを物珍しそうに眺めてから慎重に口へ運ぶ。
「……!」
彼女は目を大きく見開き僕を見上げると
小リスのようにポッキーを高速でぽりぽりぽりぽりと囓り始めた。
「この夢のようにおいしい食べものはいったいなんですか?」
「何って、ポッキーだけど?」
「ぽっきぃ? ぽっきぃ、ぽっきぃ……うむむ」
「よかったらまだあるけど」と鞄の中をごそごそしていると、どん! と腹に響く大きな音がした。
気付かないうちに夕立は止んでいて、極彩色の光の輪が夜空を明るく照らしていた。
「そういえば今日は花火大会だったな。ほら見てごらん。花火だよ~」
話しかけようとして視線を下げると少女はいつのまにかいなくなっていた。

少女のことが気になってバス停の先の信号を左に曲がった三軒目まで行ってみると
そこは無人の小さな神社だった。
僕は鞄からポッキーを取り出し、小さな狐の彫像の前にそっと置いた。

更新日:2010-02-17 15:53:52