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タイムトラベル1999年

  そして、いよいよその日が来た。タイムマシンを目の前にしたイオは、
興奮を隠し切れない。しかし、おかしな事に気が付いた。タイムマシンの
底に組み込まれている装置に見覚えがある。そう、イオボードが組み込
まれているのだ。

 「実はね、このイオボードにタイムトラベル機能を追加させたのだ。
万が一の時にはこれを使って欲しい。」見送りにきた笹部大臣がそう付け加えた。

 1999年頃の服装に着替えると原野イオはタイムマシンに乗り込んだ。
なんだか、ぶかぶかして落ち着かない。計器類のチェックを終えると彼は
スタッフに会釈した。

 秒読みが始まる。3,2,1,0・・・・・。
マルチウェイブサップレッサーが始動し、周りの騒音が消え、人の気配も消える。
かすかに自分の心臓の鼓動だけが聴こえ、確かに自分の心臓は動いているの
だが自分の動作も周りのスタッフ達も止まって見える。それでいて彼らの心や
周囲の雰囲気、さらに研究所の外の様子までもが手に取るように解る。

 それは、とても穏やかな気分で、予想とは違うものだった。
やがて、周囲は消え去り、何も無い空のような空間に包まれる。
何も見えず。何も聴こえないが、全てが見え全てが聴こえる・・・。
そんな不思議な体験の後、時空共鳴装置が働くとワープが始まった。

  と、突然、色々な匂いや、騒音、光景が入り乱れて渦となり、
めまいを起こしそうな耳閉感に襲われた。

             「ドーンッ!」

  内臓をえぐるような重低音が鳴り響く、ワープの終了だ。
軽い失神の後、頭を振り、あたりを見回す。場所はビルの屋上で駐車場らしい。
屋上には看板を照らす、巨大なライトがあり、真っ黒な夜空を照らしている。

  周囲に誰もいない事を確認すると、タイムマシンのスイッチを切り替え、
マシンを1990年代の車に変身させる。レトロなマシンに変身させた後、
ドアを開け車外にでた。

      「ヴェホッ、ウフォ、ヴェーホ!」

  突然イオは咳き込んだ。空気が恐ろしく汚い。慌てて車内に戻り、
マイクロ・エアフィルターを吸入する。(ふーっ、危ないところだった・・。)

  ほっと一息すると、今度は恐る恐るそる、車外にでてみた。今度は大丈夫だった。
訓練で聞いてはいたが想像以上に大気が汚染されているようだ。もう一度、訓練の
手順を思い出し、イオは車内で朝を待った。

更新日:2010-02-08 20:07:27

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