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名前の呼び方

 拓海君に会って、ソファの話をしていた。腰痛が出るのでどれぐらいの高さの物がいいとか話をしていて、
「ソファね。仕事先であるかもしれないな」
「そう?」
「不要になったものなら、あるかもしれないな」と言ったので頼んだ。
「でも、大変だな。普通は、仕事を抜け出したりしないだろう?」
「先生が言うには、そのうち向こうが駄目になるから戻ってくるって」
「甘い人だね」
「頼まれたらしいの」
「でも、ちょっとな。普通なら、すぐ首になるだろうし」
「千石所長はおおらかで寛大みたいだから。ただ、うちの所長も寛容なところがあるとはいえ、こう度重なると」
「困った人だな」
「そうだけれど」
「掛け持ちだと大変だろう?」
「それなりかな。残業しない日もあるし」
「そうか。そろそろ、ちゃんとデートしたいけれどな」
「ごめん」
「いつまでも食事して話だけと言うのもね。映画とか行きたいし」
「そうだね。拓海君としてないからなあ」
「あいつは、いつ戻ってくるって?」
「さあね。そのうちまた来るだろうけれど、仕事が忙しいだろうし」
「あいつ、日本には戻ってこないのか?」
「さあ、そのことも考えたいとは言っていたけれど」
「そうか」
「そのうち、また、手紙を書くから」
「あいつは心配しているだろうな」
「心配性すぎる」
「俺も気持ちは分かるな。詩織の場合はなんだか心配になるから」
「そう言われても、困るなあ」
「好みの問題なんだと思うけれどね。友達でいたんだよ。元気が良すぎて、しっかりしすぎてたところがあって。でも、おとなしい子をやっかんでいるところがあって」
「どうして?」
「助けてもらえるからだってさ。最初は分からなかったんだけれど、他のやつが指摘して分かったんだ。自分がしっかりしすぎていて、誰にも頼らずに一人で決められる子なんだけれど、強がっていたらしくて、それを指摘されて、『そっちばかり大事にしないでよ』とぼやいていた。でも、みんな、笑って終わり」
「そういうものなの?」
「周りの人たちが思わず助けたくなるタイプじゃなかったからね。その子は彼氏を変えてばかりいたんだよ。合わなくなるとすぐ次にいくタイプ。それに、しっかりしていて前向きなんだけれど、でも、そういうおとなしい子で誰かに助けてもらっているのを見ると腹が立つんだって」
「どうしてかな?」
「多分、うらやましいけれど、そういう自分の感情は認めたくないんだろうな。自分は一人でできるのに、周りの男たちに認めてもらえないからだと、指摘していた男が分析してたけど」
「ありえるね。でも、腹が立つと言われても困っちゃうね」
「その子は言いたいことがいっぱい言えて、男友達も多い。自分ではモテると公言していた。ところが、そのとき周りにいた男たちは彼女のことは好みじゃなかったらしくて、女性扱いしてなかったから、それが面白くなかったんだろうね。それに、後で他のやつらに教えてもらったけれど、おとなしい子を助けていた相手が気になっていたらしくて、面白くなかったらしい。結局、気になっていた相手はおとなしい子の方と付き合ってしまって、それでますます怒ってたけれど」
「モテたんでしょう?」
「彼女が言うにはそうみたいだ。ただ、『自分が好きになる人は違う人に行ってしまう。おとなしいタイプに取られることが多い』って、ぼやいていたらしい」
「難しいね」
「それに彼女は男友達が多かったから、そちらを優先すると付き合った相手が束縛してきて、それも嫌だと言ってたし」
「そういう人もいるだろうね」
「男の方が束縛したがるって言ってた。でも、他のやつらは女の方がうるさいと言っていたけれどね」
「そう? それはどちらもありそうだね。こちらと向こうだと感覚が少し違うのかもしれないね。向こうだと女性も結構はっきり言ってた。男の方も彼氏がいる子に平気で声を掛けていたし」
「そういうものか?」
「好きだからという気持ちの方が大事なのかもね。浮気もしてた人が何人かいたけれどね」
「詩織はあいつ以外と付き合ってないのか?」といきなり聞かれてむせた。

更新日:2010-03-05 20:04:05

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