• 4 / 104 ページ

部活

 入学から1ヶ月は経たない時期だったと思う。

「おはよう……」
 
 自ら声をかける快挙を成し遂げるのが日々当たり前になっていた。
 僕はそこそこクラスに馴染んできていたのだ。

「おはよっ」

 後ろの席の葉崎は、明るくておもしろい奴だった。
 趣味は料理。
 
 だけど、葉崎は性格にかなり二面性のある人間だ。

「葉崎ぃー、宿題やった?」

 寝癖のついた髪を気にする様子もない、だいぶ顔も恐いと思えなくなった古雅が、僕の席の前を通り過ぎて、葉崎の席へ向かおうとした。

「やってねぇの?」
「あぁ、昨日いそ……」

 がしくてさ。

 と、続くのだろうと思っていたのに、そこにはバターンという派手な音が響いた。

「あれ?」

 葉崎が首を傾げる。

「なぁ、」と背中をつつかれて、僕は葉崎を振り向く。「いま、そのへんに古雅がいたように思ったんだけど……気のせいか」

「一応、……いる、けど」

 僕は、僕の席の前でスッ転んだ古雅を指差す。

「痛っ……」
「がはははははははははははははははははっ!!」

「笑うなよ! 痛ぇんだよこっちは」

 葉崎が目から涙を流す勢いで爆笑してた。
 僕も、つられて頬を緩める。

「ははは、だって、急に、急にお前、消えははははは……」

 そんなにはおもしろいことだとは思えないのだが、葉崎は壊れたように笑う。
 転んで痛がっている奴に対して酷くないかと、疑問を抱きつつ、
 こういうものなのか、と僕は何も言わないでおいた。

「古雅だっせぇ! なぁ、風野」
「あぁ、まぁ……ちょっとな」

 楽しそうにしているのを害してはならない。
 僕は、葉崎に合わせて頷き、一緒に笑った。


 一緒に笑う。
 僕にとってはなかなかないことだった。


 古雅、ごめん。


 心の中で呪文のように唱えながら、今だけは笑っていたいと必死だった。
 また、この「友達」が、いつの間にか友達でなくなってしまわないように、必死だった。


 
 

更新日:2012-02-02 23:29:30

  • Twitter
  • LINE
  • Facebook