• 12 / 104 ページ

触れる


 何日も何日も、同じような日が過ぎていった。
 僕と彼、古雅は、特別親しくなるわけでもなく、知り合い程度の距離を保っていた、と思っていた。なにしろ、僕と古雅の接点といえば、放課後の美術室だけだったのだ。

 どうして僕がほぼ毎日、用のない日はそこに座っていたかというと、それはただ優越感に浸りたいが為だ。

 同じような日が繰り返されていく中で、それでも教室の中の人間模様は刻々を進展していっていた。

 5月の体育祭が終わる頃にはカップルができていた。
 僕も入学前にはその波に乗ろうとか、思い上がっていたのに、予想外に「通学」という荷物は重く、まだそこまで気が回らなかったという言い訳で、完全に乗り遅れた。
 体育祭は、ほとんど寝てすごしてしまった。女子の間では、どういう印象だったかといえば、マイナスだろうなと思う。

 それに比べ、古雅の活躍は目覚しかった。
 初めての体育の授業のときに驚いたのが、インドアなのかと思っていたのにかなりの俊足の持ち主だったということ。球技も、部活に入っているやつには劣るし、ドジを踏むことが多いにも関わらず、派手な動きで注目を集めていた。

 カッコいいわけではない。
 惹き付ける。
 放課後の絵と同じだった。

 それに加えて、古雅は長かった髪を短くした。

 イメチェンだ。

 というよりも、本来の姿に戻ったような。
 すっかり暗いイメージが払拭され、彼は明るく人を引き寄せるタイプになっていた。

 古雅の周りには、いつも人がいた。
 かつ、成績もそれなり。

 僕が勝てるのは、なけなしの絵の技量だけだった。
 それも実力ではなく、継いだ血のそのものではあったけれど、たまにふらっと現れる下田に古雅ではなく僕を褒めてもらえること、古雅を笑うことができること、僻まないでいられること……

 僕が美術室に通うには十分すぎる理由だった。
 
 季節は、夏服のシーズンへと移り変わっていった。

 蝉が鳴きはじめ、濃く青い空に白い入道雲、緑の葉。
 湿った空気、暑さ、熱さ。
 光で肌が焼ける痛み。
 汗の冷たさ、べたつき。

 美術室に、扇風機が回り始めた。 






















更新日:2010-01-29 21:25:25

  • Twitter
  • LINE
  • Facebook