• 28 / 880 ページ

特務の資格

 国連大学に帰る途中、車内でオーデンスバーグ女史から聞いた話は次のようなものでした。
「あなた四年ぐらい前、日本の関東地方で、小型の戦闘艦が発見されたことをご存知かしら?」
「いえ、知りません。」
「でしたら今度ぜひ見に行くといいですわ。今は京都市の日本空軍基地で整備中だと聞いていますから。」
「はい。でもそれがわたしとどう関係があるのですか?」
「実はですね、国連軍があなたのことを認めた理由というのが、その発見された旧世界の戦闘艦に、あなたを指揮官として迎えたいからですのよ。」
「指揮官…!?」
 もう少々の事では驚くまいと思っていましたが、やはり驚いてしまいました。
 その戦闘艦の名前は“月影(つきかげ)”。旧世界末期の日本人アッパーズたちが、当時の科学力の粋を結集させて建造した、全環境型駆逐艦第一作目です。
 海上はもちろん、水中潜航もでき、そして驚いたのは、時空物質時代の現代ならではの飛空艦だと思っていたのに、なんとその月影はちゃんと空を飛ぶこともできる他、宇宙空間をも自在に航行可能だというのです。なぜなら月影には、当時世界中でその研究が進められていた、“操重力エンジン”が搭載されているからなのです。
 現代の飛空艦は、変質量時空物質であるシグマを電磁制御することで、重い船を空中に浮かべ、推進力は別に時空ジェットエンジンで発生させます。
 しかしその操重力エンジンとは、地球の重力を直接揚力と推進力に同時に変換することができ、足らない部分や宇宙空間では、ロケットエンジンを使う仕組みだというのです。
 しかも、電力供給の一部を太陽電池パネルが担っており、当時でも画期的な省エネルギーシステムを導入しているそうなのです。大気圏突破には専用のブースターが必要だそうですが、それも一緒に発見されているとのことです。
「そんな船を…なぜわたしが?」
「それはですね、月影のコントロールシステムが、あなたの時空力に対応する能力を持っていることがわかったからですよ。」
「時空力!? …で、でも、時空力のことは、わたしたちやノエル以外には、まだ誰にも知られてないんじゃないですか?」
「もちろんその通りですわ。月影は発見されから今まで、日本軍と国連軍が共同で様々な分析を行ってきました。おかげでほとんどのシステムは解明されましたが、まだ最大の謎が残されていたのです。」
 それは操艦の根幹に関わる、“精神波同調中央制御方式(MSCCS)”と呼ばれるものでした。なんでもブリッジにある指揮官席に、その操作パネルと得体の知れない装置が据え付けられてあって、それが操艦や戦闘に必要なすべての部分にわたって、決定的な支配権を持っているらしいのです。
「なぜそんなものが、旧世界で造られたのですか?」

更新日:2010-01-27 22:57:23

  • Twitter
  • LINE
  • Facebook

超時空物語RAIN 第二部 光と闇