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3章 調査の始まりは、一月の寒い日の......

 しずかちゃん調査の始まりは、一月の寒い日のことでした。
 このときまでに私が知っていたジャイアンはただ一人でしたが、しずかちゃんの調査にはスネ夫に雇われたたくさんのジャイアンが来ていました。もちろん、ジャイアンたちの本当の名前がみんなジャイアンということであるわけはなく、それぞれがそれぞれに別の名前を持っていました。けれどもみんなみんな、たくましく頼もしく、やさしく気のいいジャイアンでした。
 ジャイアンたちはみな、しずかちゃん調査のプロでした。百戦錬磨のプロたちでした。
 スネ夫にくっついて来ただけの私は、プロであるジャイアンたちにどう言って自己紹介したらいいのかさっぱりわかりませんでした。なので、そのときまでにスネ夫から言い渡されていた唯一の仕事内容を足がかりにして挨拶しました。
「こんにちは。お弁当係のタケコプターと申します」
 割合に立派な挨拶が出来たと思っています。

 お弁当係を名乗った私ではありますが、スネ夫からのアルバイトの話に「うん」と言って以来、調査の足手まといにならないようにと、懸命にしずかちゃん調査の準備をしました。
 月に数日程度のアルバイトなら大丈夫だろうと軽く考えて返事をしたことを少し後悔してしまいましたが、やはり、引き受けたからには、きちんとスネ夫の役に立ちたいと思ったのです。
 集中力を要する作業以外は、ほとんど一日中イヤホンをつけ、そこに繋がる小さな機械からエンドレスで再生され続ける音を聞いていました。
 それは、スネ夫に渡されたディスクからコピーした、しずかちゃんの声でした。スネ夫から「今度の調査までに覚えておいてね」と言われ、ハイハイとふたつ返事で受け取っていたものです。

更新日:2008-12-11 12:28:25

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