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朝のひとこま

挿絵 449*405


「んーーー・・・・」

カーテンの隙間から、強い陽が差し込んでくる。

いったい、何時なんだろう。

・・・・・・いったい、何時に、寝かせてもらえたんだろう。


ギシ・・・・ ベッドをきしませて、体を起す。
ベッドの音というよりは、自分の体の音じゃないかと思ってしまう。

「嫌じゃないけど・・・ 限度は、考えてほしいなぁ」

自分の呟きに、思わず赤くなった。

・・・ いつの間にか、嫌じゃなくなったんだな。

自分の言葉で、それに気付いた。


なんだか階下が騒がしい気がする。

父さんと久美子さん(新しいお母さん)は、昨日から2泊3日の温泉旅行へ行ってしまった。

言うまでも無く、昨夜は聖夜と享の、狂乱の宴となった。

「・・・・・はぁ」

オレは目を落とした自分の一糸まとわぬ姿に溜め息をついて、衣類を取りに立った。



キッチンから、聖夜のトゲトゲしい声が漏れてくる。

「いつまでも ッゼーんだよ! 開かねーモンは 開かねーんだから、仕方ないだろ!」

「おはよ、どうしたの?」

「えーん、雪にぃっ  聖ちゃんてば、酷いんだよ」

スンスン ベソを掻きながら、享が飛びついて来た。

「誰ガだ! さんざ人にもやらしといて、ブッ殺すぞ テメェ!」

その享をオレから引き剥がしながら、聖夜が食い掛かった。

「もー、やめなって。 だから、どうしたの?」

「イチゴのジャムでトーストが喰いたいのに、瓶の蓋が開かないんだと」

聖夜が吐き捨てるように言った。

「布団の中でもう決めてたんだから、どうしてもイチゴジャムで食べたいの!」

「開かねーんだから 大人しく諦めろって言ってんだよ!」

「どれ?」 

「ほら・・・ 酷いでしょ、 聖ちゃん、 ね? 雪にぃ」

「・・・・ブッ殺す・・・!」

喧々囂々と今にも組みかかりそうなふたりに割って入りながら、テーブルの上にジャムの瓶を見つけて、手に取る。

「これ?」

「・・・あーー、雪ちゃんじゃ、無理無理。 オレと享が2人ががりでやって、ピクリともしねぇ」


オレは引き出しからスプーンを1本取り出すと、シンクへ向かった。

水道をしばらく出しっぱなして、熱めのお湯になったのを確認すると、瓶の蓋をお湯にくぐらせ、しばらく暖めた。

やがてそれをタオルで拭くと、蓋の角を、スプーンで カンッ と一叩き。

そして、オレはその蓋に手を掛けると、なんの抵抗もなくスルリとそれを回した。


「「 スッッッッ ゲーーーーー!!!」」

2人の驚嘆の声が重なって響いた。

「雪ちゃん、ソンケー。 どうやったのよ」

「え・・・みんな、こうやって開けるんだと思ってた」

「雪にぃ、天才!!」

ちょっと気恥ずかしくなって、食パンの袋を手に取った。

「じゃあ、享にトースト焼いてあげようね。 聖夜も食べる?」

「いや、オレはいい。 カップ麺喰ったし」

「そう、じゃあ、オレのと2枚焼こうね」

トースターに食パンを2枚ならべて、タイマーをかける。


ニコニコ嬉しそうな享の視線に気付いて、目が合った。

「後で、雪にぃにもイチゴジャムぬってあげるからね」

「え? いいよ、オレのは自分でぬるから」

「雪にぃが・・・・自分で、ぬってくれるの?」

頬を真っ赤にして、キラキラの目で享が言う。

タバコに火を点けた聖夜が、ピクリと反応した。

「あー うまそ、  ・・・ヨダレ出ちゃう」

「? やっぱり聖夜にも焼こうか?」

焼きあがったパンを一枚ずつ皿に乗せて、その一枚を享に渡し、自分のトーストにさっき開けるのに使ったスプーンでジャムをのばしなが言う。

「いや、パンはいいよ。 それより、早く喰いなって、雪ちゃん」

「そうだね、あったかい方が美味しいよね」

そう言って享を見ると、享はすでにそのほとんどを口に押し込んでしまっていた。

「ふぁやく・・・ 雪にぃも、早く食べて!」

「なに? どこか行くの?」

「いいからいいから」

あんなにイチゴジャムで食べたがっていたくせに・・・・

享は、味わいもせずにパンを喉に押し込むと、オレを急き立てた。


聖夜がイチゴジャムの瓶の蓋を閉め、手に取ると享に言った。

「先、行ってる」

「あーーーーっ もうっ 聖ちゃんてばぁ。 せっかくオレが楽しみにしてんのに」

「独り占めはいかんなぁ」

「ちぇっ」


・・・・・ ハイキング?  ジャム持って?


その後の展開が読めないまま、オレは急かされるままに、必死でパンを飲み込んだ。




更新日:2009-12-25 08:03:09

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