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おまけの短編 忍の受難

学校から帰宅すると、修兄ちゃんが俺に言った。

「…なんだよ、忍。もう帰って来たのかよ。
 これから彼女が来るんだ。…邪魔したら許さないからな。」

「…邪魔なんか、する訳ないじゃん。
 俺もこれから愛が遊びに来るんだから、邪魔しないでよね?
 あと、あんまり部屋で変な事をするのも禁止だからっ!」

俺がそう言うと、兄貴はふふん、と鼻で笑った。
…絶対約束、守る気ないな。

兄貴に彼女がいるのはいつもの事だが、部屋に連れて来たのなんか初めてじゃないだろうか?
まぁそんな事、俺には関係ないんだけど。

『ピンポーン!』
チャイムが鳴った。
ドアを開けるとそこには、隣の葵お姉さんが立っていた。

「こんにちは。えっと、今日は一体…?」
俺が不思議に思ってそういうと、彼女は少し恥ずかしそうに笑って、言った。

「こんにちは。…あの、修君、いる?
 今日、約束してるんだけど…。」

俺は正直かなり驚いたけれど、平静を装って答えた。

「あっ、修兄ちゃんですか?ちょっと待ってくだ…。」
そこまで言った時、既に兄貴は俺の背後にやってきていた。
二階に居た筈なのに、なんて早業だ…。

「いらっしゃい、葵!どうぞ?」
兄貴は言った。俺が見た事無い位、無邪気な笑顔で。
そしてその笑顔は、弟の俺から見てもめちゃくちゃ可愛かった。
それを見た彼女は、ホッとした様に笑った。

しかし俺の本能は、全く別の事を俺に訴えた。

…葵お姉さん、絶対油断しちゃだめだよっ!
修兄ちゃん、羊の皮をかぶった狼だからっ!

俺の表情を見てそれを察知したらしい兄貴が、微笑んで耳元で囁いた。

「…余計な事、言うなよ?あとこれ、お前にもやるっ!」

そういうと兄貴は、俺の手に何か小さな包みを手渡した。
何も考えずにそれを見た俺は、思わず小さく声をあげてしまった。
「なっ!?これって、まさか…。」

そう、その小さな包みの正体。
…それは、コ○ドームだった。

唖然とする俺にまた、兄貴はにっこりと微笑んだ。
胡散臭いほど、爽やかな表情で。
何も分かっていないらしい葵お姉さんは、兄弟仲良くてほほえましいね、なんて言っていた。
それから二人は、修兄ちゃんの部屋に向かった。

その時また、チャイムが鳴った。
俺は慌ててそれをポケットに仕舞い込むと、ドアを開けた。

「こんにちは!どうしたの、忍。…顔、真っ赤だよ?」
そこには葵お姉さんの妹で俺の彼女、愛が立っていた。

「いらっしゃい。…なんでもないよ。ちょっと、暖房が利きすぎてるのかな…。」
俺はまた平静を装って、彼女にそう答えた。
愛は不思議そうに首をかしげた。

俺の部屋に入ると愛は、嬉しそうに笑って言った。
「忍の部屋に来るのなんて、ホント久しぶり!
 …相変わらず、無駄に整頓されてるねぇ。」

「…無駄にって、なんか失礼な感じだな。
 俺は愛と違って、散らかってると落ち着かないからね?」
俺が笑いながらそういうと、彼女はむっとした様に唇を尖らせた。

…ホント、かわいいなぁ。

長い片想いの末、漸く手に入れた彼女。
我儘で自分勝手な奴だけど、俺は愛の事が可愛くて仕方ない。
…恥ずかしくて、なかなか口に出しては言えないけど。
そんな事を考えていたら、愛がいきなり俺に抱きついてきた。

「し~のぶっ❤」
そういって嬉しそうに笑う彼女は、やっぱり凶悪なまでに可愛い。
俺も彼女の腰に手を回し、キスをしようとしたその時だった。
…ポケットから、例のブツがポロリと転がり落ちた。

「これ、何?」
不思議そうにそれを拾うと、次の瞬間彼女の顔はみるみる真っ赤に染まっていった。
呆然とする俺に強烈な平手を見舞い、愛は絶叫した。

「二度と部屋になんか、来ないんだからっ!馬鹿、スケベ、変態っ!!!
 忍、サイッテーっ!!!大っキライっ!!!」
そして彼女は、部屋を飛び出した。

…この後彼女に誤解だと信じて貰えるまで、結局1週間もかかった。

そして俺は、心に誓ったのだ。
修兄ちゃんと葵お姉さんの問題には、もう二度と関わるまい、と…。


                                           …FIN

更新日:2010-02-10 14:29:48

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