• 70 / 100 ページ

ミッション6 愛を感じる

泣きやんでも、私はそのまましばらく、昴くんの胸の中にいた。

昴くんの匂いが、やけに懐かしく感じられ、どんどん心が落ち着いていく・・・。なんでだろうって、私はずっと思いながらも、その胸の心地良さに、なかなか昴くんから離れられないでいた。

「ひかり・・・?」

昴くんが、ささやくように私の名前を呼んだ。その声を聞き、私はしかたなく、昴くんからそっと離れた。

「落ち着いた?」

昴くんが、私の顔をのぞきこみながら聞いてきた。その目を見ると、やっぱり優しくて、あったかくて、懐かしい思いがした。

私は、涙を手で拭った。これからどうやって、父に会い、自分の気持ちを話したらいいのか・・・。そんなことを考えようとするのだが、それよりも今は、昴くんのあったかさに触れていたかった。

「私のこと、ひかりって呼んでるんだね・・。」

「え?ああ・・。うん。駄目かな?」

「ううん・・・。私はなんて呼んだらいいのかなって思って。」

「え?昴くんっていつも・・・。」

「いつも?」

「あ!いや・・・、なんとでも・・・。昴でも、昴くんとでも・・・。」

昴くんは、あわててそう言った。

「じゃ、昴くんって呼ぶ・・・。私よりずっと年、下なんだよね?」

「ずっとじゃないよ。10歳だけだよ。」

「10歳も?」

「そんなに離れてないでしょ?」

「・・・・。」

私は黙り込んだ。それから、車の運転席にいた女性のことを思い出していた。

「運転してた人・・・、あなたの彼女?」

「ああ・・・、珠代ちゃんのことか・・・。えっと・・、そうなるのかな。」

「・・・・・・。」

彼女なんだ、やっぱり・・・。

私の心が、なぜか重苦しくなった。黒い霧を出していて、どうやら昴くんがすぐに、光で消してくれたようだ。また、気持ちが軽くなったような気がした。

「・・・なんで?」

「え?」

私は、昴くんにいきなり、なんでって聞かれてあせっていた。

「なんで彼女かって聞いてきたの?」

「ううん・・。なんとなく気になったから。」

「そう・・・。」

昴くんは、そう言うと少しうつむいて頭を掻くと、

「でも、もう別れるよ。」

と、ぼそって言った。

「え?なんで?」

「うまく説明できないけど・・・、珠代ちゃん、あ、珠代とはさ、違ってたんだ。」

「・・・何が?」

「お互いが、なんていうか・・・、足りないもの埋めるためにいたっていうか・・・。求め合うばっかりで、愛し合ってはいなかったっていうか・・・。やっぱ、うまく言えない。」

「・・・・それで、別れるの?」

「・・・。うん。付き合っていけないなって、そう気がついたし。それに・・・。」

昴くんは、何かを言いかけて、やめてしまった。

私はその続きをしばらく待っていたが、昴くんが、なかなか話さなかったから、聞き返した。

「それに・・・・?」

「いや・・・なんでもないよ。」

昴くんは、ものすごい優しい目をして、私を見てそう言った。

昴くんの話を聞いていて、複雑だった。人を好きになるって、付き合うってどういうことなんだろう。足りないものを埋めあい、求め合うのは違うんだろうか・・・。

それに、どうしてそういうことに気がついたんだろう。

「好きじゃなかったの?」

「え?」

「その・・・珠代さんのこと。」

「・・・。好きだったよ。」

「好きなのに・・別れるの?」

「・・・うん。」

「・・・・。」

私はもう、それ以上何も聞けなくなった。こっちの私は、恋愛経験はほとんどしたことがなく、昴くんの言うことが、理解できなかった。

更新日:2010-02-26 21:57:44

  • Twitter
  • LINE
  • Facebook