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人気者と理解者と

申と未の戦いからわずか数秒後―、学園内にはまた新たな空間が発生していた―。

「あ、あぅ・・・」

「おぉぉ、本当だったんですね・・・」

二人して世界の暗転に戸惑っている。その人物は、卯を憑き神に持つ逆井卯月と、午を憑き神に持つ馬飼佐助だった。共に草食動物の憑き神という事もあってか、その反応も少し似通っているように見える。おどおどとうろたえる卯月に興味深そうに辺りを見回す馬飼。共に戦う意思なんて無いような素振りで二人は対峙している。

「あぅ・・・」

「むぅ・・・」

卯月は胸の前に手を祈る形で構え、キョロキョロと首を振り周囲の変化に戸惑いを隠せない様子でうろたえている。馬飼も、周囲の変化に戸惑っている。が、目の前の少女のうろたえようを見てしまうとどこか平静を保てているように落ち着けてしまっていた。卯月はさながら群れからはぐれた兎、もしくは単純に迷子か。親や仲間を懸命に探し、助けを求めているように視線を彷徨わせている。

「ま、まぁ! まずは落ち着きましょう! 僕だっていきなり戦おうだなんて考えてませんよ。ほら、深呼吸深呼吸」

案外、普段と変わらないものだと馬飼は思う。目の前の相手がここまでうろたえているからかどうなのか、別段気持ちに変化は訪れなかった。この空間に入ると有無も言わさず戦闘が始まると思っていたが、どうやら違うらしい。しっかりと自我が保てていて、思考もなんら変わりない。ならば望んで人を殺そうだなんて思うはずも無い話だが、・・・神の介入。最初の説明で述べられたコイツが厄介そうだ。それこそ有無も言わさない程に自我を支配されると仮定するならば。これほど呵責に耐えられそうにない話は他には無いだろう。

「ひ、ひゃい! すぅー、はぁー、すぅーっ・・・! んっ! ・・・ケホッ、ケホッ!」

「落ち着きましょう!」

「は、はいー」

自身を制御不能状態に陥らせている卯月に対し、馬飼は正常の思考に持っていかせるよう努めた。そう、何故なら。

卯月が息を整えるのに数分を費やしただろうか、まだ少し怯えが見えるが今なら冷静に話も出来そうな状態になっているだろう。馬飼はこの空間では貴重な数分を消費しても尋ねなければならない事があったのだ。

「落ち着きましたか?」

「は、はい。おかげさまで・・・えへへ」

善意で提案した深呼吸ですらむせ込んでいたのに、どこがおかげさまなのかはよく分からないが、ようやく話が出来る状態にはなったようだ。そこで馬飼は本題を切り出す。

更新日:2010-11-21 03:40:50

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